とある森の洋館の一室、天蓋付きのベッドのある部屋。
その部屋には、一人の人間と、一匹の人間の姿をした、白い何かがいました。

「……次は、どんなお話を聞かせてくれるの？ お父さま。」

白い怪物が少女の声色で、流暢に人間の言葉で、次の物語をせがみます。

「君も文字が読めるようになれば、好きなときに自分で続きを読めるのだが……。」

「でも、私はお父さまに読んでもらうのが好き。」

「……そうか。」

その言葉に、お父さまと呼ばれた男は、満足げに次の本の頁に指を掛けます。
男の朗読を遮るように、部屋の扉が慌ただしく開かれます。
そこに立っていたのは、黒衣の魔導士。

「何用かね？ ここへ来るときは、せめて娘の前では、身嗜み程度は気を使ってほしいものだが。」

「あんたには、そいつが本当に自分の娘に見えるのかね？」

「……不快だ、消えろ。」

「……その娘とやらにでも読んでもらうがいい。」

魔導士は去り際に、分厚い写本を投げて寄こします。
表紙の羊皮紙にびっしりと書き込まれた奇怪な文字や文様に眩暈を覚えつつも、男はその頁を捲ります。


「……私、読めるよ。」

男から写本を受け取った白い少女の姿をした何かが、その姿に違わぬ年端も行かぬ少女の声色で、
一体どこから発声しているのか耳を疑いたくなるような韻律の、到底言葉には聞こえない異音を発します。
通常の人間であれば、それは即座に発狂してしまいそうなものでしたが、
男は娘の発するその異音に、愛おしそうに耳を傾けるのでした。



"―――私もこの言葉を覚えれば、この子をもっと理解してあげられるだろう。―――"

そう言うと自分の頭より大きい帽子の中に手を突っ込んだ。　

大きめの板チョコを取り出し、ぱきっと半分に割ってみおちゃんに差し出した。

た、たぶんかぁ・・・。