（『そうか』と頷いた忍に促されるままついて行くと、大通りを外れて小さな通りへと案内された。
ふと、初めて見るはずのその場所で、懐かしいような…既視感にも似た感覚が肌を掠める。

その空気――匂いともいえるだろうか。
世界を越えてなお感じることのできるそれは、
青年にとっては何より馴染み、居心地のいい場所の気配であった）

（その変化は明確であっただろう。
＼ﾊﾟｧｧｧｧｧｧ…／と明るくなった表情、輝く瞳、背筋を伸ばして周囲を窺う様子も
大通りにいた時とは間逆といってもいいかもしれない。

忍の解説に耳を傾けながらも、既にうずうずと落ち着きなくなった青年は
『見て行くといい』と言われた途端、後ろ髪とマフラーが靡く勢いで店先へと向かった）

＊
　

（店先に煌く様々な装飾を興味深く見て回っていると、徐に『待っていてくれるか』と忍が問う。
首を傾げながら頷けば、すぐに戻ると言い置いて表通りへ向かう背中を見送った。

元々カサネと話す時は意識して存在感を抑えてくれているところがある忍だが、
自分が夢中になって店先を眺めている間もまた、恐らくは邪魔をしないようにと
あえて気配を薄くしてくれていたようだった。
にもかかわらず、自分の傍からその気配が離れれば急に情報量が増すような感覚に陥る）

（決意を新たにしていると、程なくして忍が戻って来た。
短く切った竹筒と、小ぶりな包みを携えた忍に促されて
通りから少し離れたベンチへと腰を降ろす。

手渡された竹筒と包みはまだ暖かく、仄かにいい匂いがする。
竹皮の包みを開けると、中から出てきたのは――）

（いそいそとマフラーを下ろすと、一口齧る。
味わい、その食感を確かめるようにじっくりと咀嚼して、ようやく嚥下すれば）

（満面の笑みが浮かんだ。
普段、食事を渡した時に見せる笑顔より何倍も輝いているその表情を見れば、
忍でなくとも青年の米好きが分かるだろう。

あっという間にちまきを平らげると、香りのいい茶で喉を潤し、ほうと満足気に一息ついて）

（穏やかな朝の時間は、こうしてゆったりと過ぎていく。
後日、波乱の幕が開くことになろうとは、この時点の彼らが知る由はなかった――…）