人間をさらうことに味をしめたジャコーバラの妖精たちは、それから次々と、ことあるごとに人間をさらいはじめました。さらった後に脱出されないよう、10歳以内の幼い子供を狙って用意周到にさらうようにしました。子供は魔法の経験も少なく、騙されやすいため、おもしろいほど簡単にさらうことができました。

それで最初のうちはうまいこと人間をさらってくることができましたが、人間たちも愚かではありません。人間の大人たちは童謡やおとき話、迷信と言った形で、妖精たちの脅威を多くの子どもたちに伝えるようにしました。そうすると、次第とだれも麝香薔薇の畑には近寄らないようになっていきました。

ジャコーバラにさらってきた人間たちだけで、小さな村ができあがるころには、近くの世界からはもう人間が一切さらえないようになっていました。しかし、妖精たちはもっと人間たちをさらって、自分たちの都合のいいように操りたいと考えていました。そこで、妖精たちは「妖精が視えない人間の世界」からも人間をさらうことを思いつきました。

さまざまな世界があるなかで「妖精が視える人間の世界」と「妖精が視えない人間の世界」が存在します。これまで、妖精たちは「妖精が視える人間の世界」からしか人間をさらってはいませんでした。なぜなら、自分たちの姿が見えないようでは、人間をこきつかいにくいからです。しかし、「妖精が視える人間の世界」から人間をさらっても、すぐに警戒されてしまい、さらうことができなくなってしまいます。「妖精が視えない人間の世界」であれば、さらうことすらも難しくはなりますが、妖精そのものの存在が信じられていないために、さらっても神かくしか何かだとおもわれて、警戒されることはありません。長期的にみれば、「妖精が視えない人間の世界」のほうが多くの人間をさらうことが出来ました。

「妖精が視えない人間の世界」から人間をさらったときには、妖精たちの秘薬である「妖精の軟膏」を塗りたくることにしました。「妖精の軟膏」は魔法的な素養がなかったり、妖精を目視できないような人間であっても、塗るだけで妖精と同等の力を得られる代物です。「妖精の軟膏」のおかげで、「妖精が視えない人間の世界」の人間であっても、妖精との対話が可能となり、ジャコーバラの人口はみるみるうちに増えていきました。