(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回自体続きなのでそれ以前の日記の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

「合図は完了。
　さ、急いで次に行くわよ。
　あまり時間はないわ。
　ここの事がばれるとは思わないけど、
　最善を尽くさないと運は向いてこないもの。」
「人使いが荒い……
　といいたいが、
　まぁ、分かってた事だしな。
　そこまで疲れている訳でもない、
　が……
　流石に走ったりするのはきついぞ。
　ここから先が本番なんだろう？」
「分かってるわ。
　だから馬を用意してもらったの。
　さ、こっちよ。
　私が乗って貴方はしっかり私にしがみついていればいいわ。
　本当は私の前にというのがいいのだろうけど……
　流石に貴方の体格で前に乗られると前が見えないわ。
　流石は男の人って感じよね。」
「至れり尽くせりにも程があるだろ。
　ま、そういう事なら、
　言葉に甘えるか。
　本番が控えているのに疲労困憊とか話にならないしな。
　道案内は……」
「勿論不要よ。
　既にここから王宮へのルートは頭に叩き込んであるわ。
　後は行くだけよ。
　任せておいて。
　――さ、早く。」
魅月の嬢ちゃんに誘導されるがままに移動する、
確かに馬があった。
中々立派な馬のようで、
これなら、武装した俺と、
嬢ちゃんが二人乗っても大丈夫だろう。
嬢ちゃんも手馴れた様子で馬に乗る。
馬に乗る事自体も問題はない。
とすれば……一番の不安要素は、
嬢ちゃんが馬を走らせている俺に何か仕掛けてくる事だが……
「……」
ちらり、
と馬に乗る前に嬢ちゃんの方をみて、
後ろに乗る。
しっかりしがみつき、
馬を走らせ始めた所で――
「変な所触っちゃいやよ？
　流石にそんな事されたら、
　振り落として踏みつけるしかないもの。
　そして変態で貴方の名前を固定するわ。」
「いうと思ったよ！？
　心配せんでも変な真似なんてするか！
　俺にメリットないだろ！？」
「あら、若い女性の体を堪能できるのよ。
　これ以上のメリットがあるのかしら？
　いやね。
　これでも容姿には自信あるのだけど。」
「そりゃあな。
　嬢ちゃんじゃなければ、
　流石にちっと考えるかもしれないけど、
　そもそも仕事で依頼人に手を出すとかしねぇよ！
　依頼人から手を出したなら考えはするけどよ。」
「あら、酷い。
　私では駄目という事かしら、
　魅力がないといいたいのか、
　それとも、
　私は女じゃないといいたいのか――」
「一つの良い思いで、
　少なくとも百以上の後悔を味あわせてくるだろうが。
　流石に割にあわないし、
　なんていうかなぁ……
　相棒ではあっても、
　恋愛対象にはなりえない感じもあるしなぁ……」
「ふふ？
　上手い事かわしたわね？」
「正直な所を話しただけだ。
　後、
　先に釘さしておくが、
　馬を走らせながら、
　妙な嬌声あげたりするなよ。
　後、妙な身もだえもするな。
　そんな悪ふざけできるくらいの乗馬スキルもってるだろう。」
予想通りというか、
息をはくようにからかいを仕掛けてきたので、
今後も仕掛けてくるであろうちょっかいを、
釘を刺すことで押し留める。
全く危ない所だった。
釘をさした瞬間、
クスリと笑ってこちらをちらりとみてきた時に、
絶対この女はやると確信した。
「残念ね。
　まぁ、でも――
　ここで悲鳴を上げるのはいいのね。」
「止めろ。
　これから大勝負の一番って時に気が抜けすぎるとまずい。」
「気を張り過ぎるのもまずいと思うけどね？」
「それくらいは、キチンと調整しているさ。
　しかし……
　乗り込んでからどうする？
　王宮だろう？」
「とりあえず、乗り込む所は急使って事で、
　身分証明は貰ったわ。
　そのままトップの所になだれ込んで捕獲、
　王様に引き渡して終わり。
　電撃作戦だから、
　兵に囲まれる心配はないわ。
　気をつけるべきは、
　立ち向かう相手の護衛ね。
　恐らく一番強い相手と貴方は対峙することになるわ。
　まぁ、さっきみたいにはいかないわねぇ。
　手段を選んでいられないわよ？」
「あー。だよなぁ。
　大丈夫だ。
　傭兵として勝利に貪欲にいくまでさ、
　別に剣に拘ってるわけでもないし、な。
　それでも剣で闘うのは、
　男のロマン、かな？」
「ロマンは大切よ。
　大切にしなさい。」
「……
　なんていうか、ロマンとかくだらないとかいいそうなのに、
　そういった事については妙に理解がいいな。」
「まぁ、いいじゃない。
　夢をもっている男の人って。
　私は好きよ、そういうの。」
「へぇ……
　そんなもんなのかね。
　……
　変な事聞いていいか？」
ふ、と何かがひっかかる。
そういえば、この女の好きな相手というのは、
どんなタイプなのだろうかと。
変わっているようで、
妙に可愛らしい台詞をはく。
それが妙な違和感に感じられた。
さすがに、
この違和感をそのままにしておくのも気持ち悪い。
きって捨てられたから、
諦めもつくが、
ここで聞いておかねば悔いが残るに違いない。
「あら、何かしら？」
「嬢ちゃんのタイプって、
　どんな男なんだ？」
「――そうねぇ。
　少なくとも貴方みたいなのはタイプじゃないわね。
　友人として、相方として、
　普通に付き合っていく分には、
　適しているのだけど、
　恋や愛といった意味での好きな相手かというと、
　まず好きになるタイプではないわね。
　それ以上ってなるなら、
　先に貴方のタイプから話して。
　それでこそ等価交換というものでしょう？」
「なるほど。
　別に構わんが、しかし、
　確かに俺からしても同じ意見だな。
　どうにも恋愛的な意味でのタイプではありえないな。
　嫌いではない、
　寧ろ好きな部類の人間ではあるが、
　だ。
　まぁ、お互い共に人生を歩むとなると、
　流石に合わない面が多過ぎる。
　ま、それに、確かに嬢ちゃんは美人かもしれないが、
　もうちょっと大人の女性の方が好みだな。
　そして、
　俺と肩を並べて闘えるような強い女だと尚いいな。
　そうでなくても、気風が良くなくちゃ。
　守ってあげたくなるような女性は嫌いじゃないが、
　流石に、
　そういう女や、
　弱い女を守るには、
　俺の稼業も、
　俺の戦い方も荒すぎる。
　ついてはこれんし、
　やめて欲しいと願われても、
　俺はこの稼業から抜ける事はない。
　天職であり、
　この職をしているからこその俺だ。
　って所か。」
「成る程ね。
　弱いだけでは貴方にはついてこれないわね。
　そういう人は、
　争いをあまり良い目でみない、
　いつかは戦いに赴く自分を否定する、と。」
「ああ、勿論表向きはそれをみせなかったり、
　やっぱり好きになったからこそ心配する事もあるだろう。
　そして、
　甘美すぎる誘惑には抗えない。」
「――戦いにいかずに、私を守って。
　その願いに答えざるをえないものね。」
「愛するものをまもる。
　ああ、それはそれで立派な事だろうし、
　それはそれで戦いがあるんだろうが……
　俺の剣の置き所は戦場だからな。」
「難儀な話ね。」
「実にな。
　で、俺はいったんだから、
　そっちの番だ。
　女の秘密だなんて逃げるなよ。
　割とこっぱずかしい話だったんだからな。」
「逃げはしないわ。
　安心して。
　まぁ、私の好みのタイプなんてシンプルよ。
　純朴な大地の香りがするような人か、
　或いは――
　冷たいようで優しさを秘めた不器用な人ね。」
「……」
「何をほうけているのかしら？」
予想外だった。
いや、何かこう、
純粋な人間ではつまらないといいそうなのに、
予想に反して、純粋な人間が好みだといってきたからだ。
「いや、その……
　はっきりいって想像してなかったからだな。
　どちらかというと、
　つまらないときって捨てるイメージがあった。」
「それなら貴方もつまらないって切り捨ててると思うわよ？
　自分を棚上げするのはよくないと思うのだけど？」
「まぁ、確かにそうかもしれないが……
　それは単純に比較対象が悪いだけじゃないか？
　本当に純粋な人間なら、
　ここまで付き合えないと思うがな。」
「――ふふ、そうね。
　貴方は少しひねているものね。
　そして……
　後者の方はともかく、
　前者の方はひねて無いのがいいわね。
　太陽のように明るくて真っ直ぐな道を歩める人。
　それでいて――
　私に普通に接してくれる人。
　流石にひかれるわ。
　そして後者については……
　基本的に相性がいいのよ。
　ふふ。
　だから、恋愛の対象にするなら、
　このどちらかのタイプになるのではないかしら？
　他のタイプの可能性もあるけど、
　その為には私をときめかせてくれないと話にならないわね。
　ちなみに、貴方には残念ながらときめかないし、
　ときめかなかったわね。」
「ま、いずれにせよ、
　普通に嬢ちゃんと付き合える時点で、
　ハードルは高いし、
　確かにそんな相手なら共に歩めるというものか。
　どちらも大切な時にこそ寄り添ってくれる相手だしな。」
「そういう事よ。
　私に必要なのは寄り添って癒してくれる相手。
　いくら私でも、
　磨り減っていくものをどうこうはできないのだし、ね。」
「磨り減るねぇ。
　その辺りは俺にはイマイチ理解できないが……」
「寧ろ理解できたらどうして理解できたの？
　と言いたくなるわね。
　貴方は理解できるタイプじゃないもの。」
「手厳しい事で。」
しかし、一つだけはっきりしたのは、
彼女に俺が惹かれないのはないのは、
きっと、
彼女もまた護るべきものに値するからなのだろう。
――これほどまでに護られる事をよしとせず、
――これほどまでに１人でなんでも出来そうな彼女。
だが、
それでも、
だからこそ――彼女は護られるべき存在なのだ。
そして、
彼女が俺に惹かれない理由もまた、
俺では共に戦うことはできても、
彼女に寄り添う事などできはしない。
寄り添って優しくするようでは俺ではない。
それが、お互いに本能的に分かっていたからなのだろう。
信頼があっても、
好意があっても、
それ以上足りえないのは。
別にそれが惜しいとか、
残念だなどとは思わない。
思うのは一つ、
ああ、やはりそうだったのかという事だけ。
「さて、そろそろ着くわよ。
　無駄話もこれまでかしらね。
　どうかしら？
　気は楽になった？
　やれそう？」
「ああ。十分気は楽になったとも。
　疲れはとれて、
　気は充溢もしている。
　どんな相手が来ても買って見せるさ。
　選んだ傭兵は凄腕でしたって所みせてやるとも。」
「あら、私は最初から貴方が凄腕なのは分かってたわよ。
　これでも場数を踏んでいるの。
　いざという時頼れる相手くらい、
　見極めれるつもりよ？」
「は、流石だな。
　じゃ、言い直そうか。
　その見立てが正しかった事を証明してやるよ。」
「ふふ、楽しみにしているわ。」
駆ける、駆ける、
城に向かって一直線に。
ようやく正門がみえ、正門に突っ込もうとしたその時、
槍を構えた門番が交差するように俺達の乗ったの馬の動きをとめる。
「とまれ！
　こんな夜半に何用か！」
「失礼。
　緊急の所要故、失礼お願いするわ。
　王がかねてより頼んだ品を運んできたの。
　連絡は届いているはずね？
　一刻も早くということで、
　夜半に到着しても応対するようにいわれていると思うのだけど。
　これが証文。」
そんな門番達に動じることなく、
懐から取り出した証文を門番へと差し出す。
門番達はそれを受け取り確認し、
中へと誘導する。
「確かに。失礼しました。
　しかし、こんな時間ですし誰か――」
「不要よ。
　問題ないわ。
　どうせこういう時の為に中で誰か待機してるでしょうし、
　あなた達はあなた達の職務をこなしなさい。
　証文を見せた以上、こちらの言い分が通るのは分かってるわよね？
　御苦労様。」
「……はっ、確かに。
　失礼しました。
　お通り下さい。
　くれぐれも夜半ですので、
　騒がず、
　そして、速やかに中に入られましたら、
　案内の人を見つけて案内されて下さい。
　それで、そちらの後ろの男は……」
「ええ、了解したわ。
　ああ、こっちは私の護衛よ。
　女だけでは旅は危険、
　いざという時につかれていてもらっては困るから、
　こういう状況になっているの。
　この人もつれていくけど問題ないわよね？」
「成る程。
　確かに。
　従者という事ですね？」
「そういう事よ。」
「分かりました。」
交渉は思ったよりもすんなりと済み、
悠々と王宮の中へと俺達は踏み入れていく。
しかし、
「なんでこんなスムーズに……」
「他国の王と、この国の王。
　両方が共犯者で、
　私達もまた共犯者。。
　オーケー？」
……スムーズな訳だ。全く。

大げさに肩を竦めた。