…そういえば、言い忘れていたことがあった

はい…？何を、です？

もう気付いているかもしれないけど。
『ハルシオン』というのは便宜上の名前であって、本名じゃないんだ

…なるほど。
あくまで2人の名前を取って付けただけにすぎない、と

自分で付けたわけじゃないけどね。
…本名なんて、僕も知らないのさ。
そもそも、そんなものが存在したのかすら定かじゃない

それなら、なぜその名を語っているのです？

その方が便利だからさ。流石に名無しじゃ呼び方に困るだろう？
それだけじゃなく、似た単語を連呼する方が刷り込みも行いやすいからね

刷り込み…？

簡単に言えば、真実から目を逸らさせることさ。
分かりやすい例で言うと…僕はディルの姿や声色を模して、シオンと会話していただろう？
この例の場合は、シオンにディルが死亡している事実を暫く思い出させないこと。
誰がいつ経験したことなのかを曖昧にさせるには…全員が触れたことのある情報を使うのが最も効率がいい

ちなみに、あれを行うためには…ディルの姿形の情報が明確にある、ラルクゥの魂を使う必要があった。
…ハルがこの地に彼女の魂を持ち込んでくれたのは運が良かったよ。
質の高い魂を持った人物の球体生成には、僕でさえかなりの時間を要するからね…

淡々と言いやがるが…。
一体どこまでが計算なんだろうな

…なかなか興味深い話で。
貴方様の異能の力は、そこまで汎用性が高いということですか

……君だって似たようなことをやっているじゃないか？
まぁ君の場合…どうやら無意識みたいだけどね

似たようなこと…？

…まずは『それ』。
時折熱や炎が放たれている現象…それは簡単に言えば命の灯さ。
…君の場合は僕と違って、死者の魂を媒体としているようだけど

…………

…そこに宿る魂に心当たりがありそうだね？
まぁ、つまりはそういうことだよ。
…それだけじゃない。僕が見る限り、『あれ』も同類だ

…………

あいつも…？

…どう見ても生者の動きじゃないのは、君が一番よく分かっているだろう？

……そうですね

…これは僕の推測だけど。
どうも、君の身体には誘蛾灯の如く死者の魂を引き寄せる性質がありそうだ。
…少し前に、死霊の王や死霊使いと戦った時のこと。覚えているかい？

ええ、もちろん。
あの時は連日調子が悪くなったものですが…

あれは死者の魂が君の体内に取り込まれすぎた結果起きた現象。
そして…あれを治療したのはシオンではなく、僕さ。
だからシオンを問い詰めたところで記憶がないのは当たり前だったんだよ

…と、いうことは。
時折シオンが様変わりしていたのは…

僕が表に出ていた時さ。その時はもう、殆ど主導権を握れていたからね。
…この地に来て間もない頃も、シオンの精神が不安定な時に一度顔を出しはしたんだけど。
その時はまだ種が足りなかったようでね…すぐにシオンの精神が落ち着き、僕は引っ込められてしまった

多分、ブランチマン…だったか。あいつらと戦った時だな。
あの時のシオンは、人を撃つことすらできずに相当錯乱してたからな……

…その影響で、君の体内に取り込まれてしまった球体はそこそこ強化されたはずだ。
必然、君にも今まで以上の力が宿っているはず。
…こういう体質だと、毒と薬は紙一重なんだよ

なるほど…。
しかし、なぜそこまで…？

簡単さ。僕が同じような体験をしたことがあるからだよ。
異能を使い始めた直後の話だし、生者の魂と死者の魂という違いはあるけれど…ね

というわけで、そういう方法を用いて君を強化する術もあるのさ。
…あまり取り込みすぎるのはリスクを背負うことになるけどね。その辺は自己判断してくれ

大変参考になりました…。ありがとうございます

…創られた肉体の限界に挑戦する。
陳腐な生き方ではあるが、他の何かを達成するついでにならばちょうどいい塩梅だ

…………。
そういえば、結局貴方様の呼び方は『ハルシオン様』でよろしいので？

…僕は元いた世界だと、同僚達に『ミコト』と呼ばれていた。
他国の言葉で、『命を司る者』という意味らしい。
…特定の異能対策として、互いのことを本名では呼んでいなかったからね。
まぁ呼びやすいように呼んでみてくれ。気に入らなかったら言う

畏まりました

……もうそろそろ、先が見えてくる頃かな？とはいえ…はたして決戦場なのかどうか。
…トガノ、君はどう思う？

そうですねぇ…。
よくて決戦前の前座、といったところではないでしょうか

根拠は？

ありません。勘です

なるほど。
…ある程度は粘ってくれるといいんだけどね。
一瞬で消し飛ぶ屑じゃあ、楽しめるものも楽しめない

ハハッ…同感ですよ。
見てる側としましても、ね

…君も、精々僕を失望させないようにすることだね。
使えない駒はもちろん、つまらない駒も僕には必要ない

……肝に銘じておきます

…こいつとの会話は随分と有意義な内容が多い。
ただ…俺は本当にこのまま付いて行って大丈夫なのか？
この一連の出来事を見届ける前に…用済み扱いされる可能性もあるんじゃねぇのか？

「・・・過ぎた力も時には身を滅ぼすとは言うけど、どうでもいいわね、そんなこと。」

「それなら、私からだって仕掛けるわよ！！」

「雷光円月脚？とか今考えたわ？　ってことで、そぉーーい！！」

あははは……たしかにあの頃に比べれば平気ってことは結構あるかな……特にお姉ちゃんが居なくなった後の家での生活は精神的にボロボロで……それに比べれば野宿も平気だったかな……頼れる人がいないのは変わらなかったしね。

うーん……家の中で読んだものばかりだから……全部が全部売りものじゃないと思うけど……重版されているのもあったかな……今はこんなご時世だから……見つけるのは難しいかもしれないけど……嘘では無いと思うよ？

へー……凄い人なんだね……でも身体の調子が悪いからお兄さんが見ているのかな？……結構危ないの？

そうなんだ……ぇとね……お姉ちゃんの名前はルチルって言うの……その……もし出会えたら……手紙でも下さいって伝えて下さい。

…まぁ、下手なものを食べるよりはいいか

…喧嘩を売る相手はよく考えるべきだと思うけど？

これは頑張らないと・・・・かな？

躾がなってませんね、・・・全く。

魔王様、聖十字をバット代わりに使うことをお許しください。

こいつぁ・・・・・シズク！！あれをやるぞッ！！

やんないよ。

一人くらいは、愉しませてくれるよなァ・・・？

さて…役立ってもらおうか