「ねー、シルヴィさん」
「なんですの、あと私の名前はサイサリスだと。」
「・・・どっちが本当？福ちゃんは私が呪いをかけたのか、それとも、のろいがえしなのか。」
笑顔ではあるが、背中から緑色のものが見えた。
「怒ってますの？」
「当たり前じゃん。」
本当のことを言わなければ命が危ない。絶対に。

「お嬢様の家族のことは知ってまして？」
落ち着かせるためにハーブティーをいれる。何よりも自分の感情を抑えるためにこの手の物が必要だった。冷静であること、自分の内側の弱いところを見えないようにどうでもいい内側を見せつつ偽装すること、それが何よりも大事だ。
「しらない。でも、変な人達だった。」
ハーブティーのカップを渡しつつ、今日、作ったかぼちゃ入りのクッキーの封を開ける。いつもなら、これで機嫌を治すのだけれど、目つきが未だに座っている上に、クッキーには手を付けない。多分、相当腹に据えかねているのだろう。
「お嬢様の家系はずっと人を呪って生計を立てていましたの。
昔は雨乞いや天気になるようなもので生計を立てていましたけれど、魔力がなくなり、それしかできなくなって。
アンテナがなくなって、呪いの穢れを受けなくなったから、呪いに。
でも、お嬢様は魔力が、アンテナがあった。」
声がしゃがれてきたので、ハーブティーをすする、薬臭い匂い。慣れ親しんだ香りと漂う湯気が感情を隠す。
「清濁合わせた仕事なんて神職はやるべきじゃないんですの。神の声が聞こえる人間が汚れた神、怨霊の声が聞こえないわけないんですから。
聞こえない声、呪詛返しを受ける土台。そういうもので、人を呪えば呪うほど、お嬢様は壊れていった。見えない呪いや見えない友達がたくさん出来た。
お嬢様の両親はそれをただの精神病と片付け「仕事を」させた。自分たちが楽をしたいから。一方でお嬢様には信託や雨乞いといったようなきれいな仕事もさせていたの。
今お嬢様が眠っているのも、呪い返しのせい。あいつらにはわかってないから、あなたに罪をなすりつけた。これでよろしいかしら？」
水色の瞳が、私を捉える。怒るかもしれない。いや、怒られるべきだ、私は。
「・・・おうちにいたら、福ちゃんはまた、病気になるの？」
「そうですわ。お嬢様は呪いを受け続ける限り、そうなります。」
「シルヴィ、さん。お家から出してあげないの？福ちゃんのこと嫌い？」
もっと別のことをどうして聞かないんだろう。どうして、こんなことを行っているんだろう。私を憎み、せめてくれないのか。
「できませんわ。私は」
「従者だとか、そんなことは関係ないよ。大事なのはシルヴィさんの気持ち、やらないなら私がここの探索が終わったら、つれだすけど、それは嫌でしょ？」
どうして。
「大事な人なら、後悔しないようにした方がいいんじゃないかなあ？」
どうして、どうして。感情を殺す、感情を殺す。感情を。
「あなたは。」
声が出ない。多分出したら、心情が崩れる。己を守るための殻が。むしろ、それがお嬢様を奪われる原因だったのか。分からない。私の過干渉がこんな状況を生み出したのか。
「私は。」
声がかすれて、何も言えなくなるのを感じた。

種族のことを持ち出されると少し目を丸くした後、くつくつと笑った。

話を一通り聞いてから、ちょっと待ったと片手をあげる。

ふたりの装いや態度を見る限りその関係が腑に落ちない。
一応、といった様子で確認する。

純粋にそこがわからない、また、わからないと心当たりも検討もつけられないと首を傾げた。

もしゃもしゃと草を食いながらくつろいでいる。