この季節になると思いだす。
町に降りたときだっただろうか。
お菓子を贈りあう人々を、祖母と自分へもお菓子をくれる村人を。
祖母の手作りの焼き菓子が消えていくのと入れ替わるように
自分がふだんは目にしないお菓子がどんどんと増えていくのを。


『おばあさま。これはなあに？』

『さあねえ。昔からある風習なんだよ。
きっと由来は色々とあるんだろうけれど、
お前は素直にお菓子をもらって喜んでおけばいいよ。』

そう笑ってしわくちゃの手でフードを被った私の頭を
そっと撫でてくれるのだ。



とても懐かしい思い出。
そんなに時は経っていないのに。
遠く、遠くに感じる。

それでも手は動く。
教わった通りに、見ていた通りに。
違うのはきっと手の皴の数だけ。
ふわり漂うあまい、あまい、香りと懐かしさ。



けれど。
甘い香りに薬草の匂いは混じらない。
時は、進んでいく。
昔のしあわせ。
今のしあわせ。

その先の　　　　。

嬉しそうに笑って、焼き菓子を配っている。
どうぞ。と一つ差し出しながら。

心なし幸せそうな顔でお菓子を受け取り、
空いた手で鞄から取り出すのは、こちらも手作りと思わしき焼き菓子。

お決まりの言葉に、彼女の『好き』を混ぜて。

うきうきと場を片付けると、レジャーシートを広げた。