大江山を訪れたツナちゃんに、刺すような視線が突き刺さる。

　そりゃそうだ。

　ツナちゃんが黙って姿を消した直後に都から討伐軍がやって来たわけだし、ツナちゃんが討伐軍を手引きしたのは火を見るよりも明らかな事だもんね。

　朱塗りの柱の御殿の前ではお館様がにやにやと笑って腕を組んで仁王立ちしている。　
　そして、その背後には余裕のお館様の表情とは全く違う…可能ならば視線で喉笛を喰い千切ってみせようと言わんばかりの憎しみに満ちた視線……。

　らいちのその表情を見た瞬間に、頼光様からまず提案された「茨木童子を懐柔する」なんて話は千年経っても無理だって悟ったね。

　ま、予想通りだったけど……。

「もう少し頑張るかと思ったが、もう和睦の使者か？　」

　お館様がにやにや笑いを浮かべながら、ツナちゃんを見下ろす。

「ま、中らずとも遠からずといったところですかね？　こんなところじゃ何ですし、お茶でもいただきながらでどうですか？　ツナちゃんが出て行った時のままなら、御殿には唐から取り寄せたいい黒茶があった筈なんで、それをいただきながらというのがいいですね」

　ツナちゃんののほほんとした受け答えに、焚火の熱が風に煽られてこっちへ向いた時の如く、敵意の視線が熱量を増す。

「この場にいたら、いつ矢を射かけられてもおかしくないんで、お茶の用意は手早くお願いしたいですね」


　表面上はそんななんでもない様子を装っているけど、正直これは相当ツライ。籠手の中は汗でびっしょりだし、敵意というのはこんなにも肝が冷えるものなのかと思い知らされる。

「よかろう。鎧は外して来いよ？　南蛮渡来の家具にその無粋なもので擦り傷をつけられてはかなわんからな」

　お館様はにやにやとした笑いを崩さずに、朱塗りの柱の大御殿へと消えていく。

　ツナちゃんはと言えば、一度駕籠に戻って担ぎ手に玄関先の馬を繋ぐ柱の前に待つように指示し、駕籠に二言三言呟くと、御殿へと向かう。

「……」

　途中らいちとすれ違うあたりではとても目を合わせられず、ただただ天を仰いで御殿の中へと歩みを進めて行った。

らいちに「食事に連れて行け」と、唐突に言われてやってきたのはいつもの教会裏庭……
レオン神父が腕を振るう中華料理屋さん

真っ白い塊が乗った皿がテーブルに置かれる

神父が白い塊に綿棒を振りおろすと、白い塊が割れ、中から牛肉の塊が出てくる。
神父はその、白い塊の中から取り出した肉を切り分けると、皿に取り分けた。

らいちは取り分けられた肉を箸でつまんで一口。
ソルトもそれを確認した後、ナイフで切った肉をフォークで口に入れる。

レオン神父の牛肉のフルコースを食べ終えて一息。
食後のお茶を味わう。

らいちがテーブルの上に「腹が減ったら好きなものを食え。足りなかったらソルトの付き合いのある店へ行って名刺を見せろ」と、言われて渡された財布を放る。
口紐が解けて転がり出たコインの量は、それが食事代金であるというのならば毎食ホテルのレストランで食事も出来るであろう額だ。

ソルトは何も答えない。

ソルトはやれやれといった表情ですっかり冷めてしまったお茶に口を着けた。

　　　　　　　懐から筑前煮を取り出し、そっと差し出した