――いつかの話―――

役割、という考え方について、お主はどう思う。

役割は、可能性と似ている。
似ているが、違うものじゃ。

何にでもなれる可能性と、何にでもなれる役割は違う。
だが、可能性を突き詰めていくことは、役割を突き詰めていくことなのじゃ。

何かの役割を演じること。
演じることは、究極的に見れば、対象と一体化することじゃ。
演じる対象、そのものになること。
演じているということさえ、感付かれないこと。

周りから見ても、あるいは本人にも、演じているということを意識させないこと。

そこまで到達した場合、それは演技と言えるのじゃろうか。
おぬしはどう思う。
演じていると言えるじゃろうか？

そこまで到達した誰かの可能性は、その時点で、すっかりすり替わっている。
彼、あるいは彼女が持っていた可能性は、演じる対象へと置き換わってしまった。

何者かになれる可能性を、たった一人の誰かになるために費やしたのだ。
費やし、終果てた。

それを悲しいと思うのも、よくやったと称えるのも、お主の自由なのじゃ。

この騒ぎの中で毛糸を手に入れるのは苦労する様だ。

　くすくすと笑みを返しながらも、内心では本当に驚きに満ちていた。
　世界なぞ、こうしてあっさり作り変えることが出来るのだと、彼は言っているも同じなのだから。
　そして、それが本当だと実感できていることに不思議な嬉しさを覚えているのだった。

　見上げるように悪戯っぽい視線を注ぎ。

　むー、と納得いかない表情でむくれ。

　頭をかかえながらも、ちらりと盗み見た灰色の青年の晴れやかな笑顔を見て。
　これはこれでよいのかも知れぬな、と肩をすくめた。

のろのろと顔を上げるクラガの腕から赤黒い焔が立ち上る。それは獣へと姿を変え、具現化した。