(※あいも変わらず本編とはあまり関係ありません。
　 前回の続きとなっております。
　 前回自体続きなのでそれ以前の日記の方もどうぞ。
　 良ければ過去の日記とあわせてお読みください。)

いきなりとんでもない事を聞いた。
というか、
それを俺にいってどうしろというのか。
「……
　もう一度いってくれるか？
　すまない、
　俺の耳がどうかしたのかもしれない。
　何かおかしなことを聞いた気がするんだが。」
「あら。
　別にどうかしてないわよ。
　聞いたとおりの話。
　この国が平和なのは表面だけ。
　隣の国の魔女の脅威以上の脅威が蔓延ってるわ。
　ここ。
　しかも、間違いなく厄介さもこちらが上ね。
　詰んでるんじゃない？
　対策とろうにも、
　国の上層にまでその問題が食い込んでる以上、
　凄く楽しいことになりそうね。」
「……ソースは。
　というか、冗談だろう？
　少なくともそんな話は俺は聞いた事も、
　見てもいないんだが。」
「ソースは、まぁ私の魔法って所かしらね。
　冗談なんかで言う事ではないわ。
　これから、
　何も問題がないとたかをくくってる連中に向けて、
　仕掛けようと思うから、　
　早速のお仕事よ。
　よかったわね。
　まぁ、最初だし、
　小規模な所を狙うから大事にはならないし、
　相手を逃がさなければ、
　今後の活動には問題ないわ。
　どうせ見ないと信じないでしょう？
　ああ、
　そうそう。
　ちなみにこの話はね。
　貴方を雇ってた商人の人にも話したわ。
　証拠の品と貴方の目撃証言があれば信じて貰えると思うし、
　本当だったら、
　裏で色々支援してくれるそうなの。
　もちろん、
　私が完全に失敗したら、
　こっちを切ってくると思うけど、
　失敗する気も、
　させられる気もしないから問題ないわ。
　私に必要なのは後詰めだもの。」
「成る程ね。
　証拠を見せられてしまえば、
　こちらが信じていようと、
　信じていまいと、
　信じて認めざるをえない、か。
　しかし、
　凄い自信だな。」
「……昔からそういった関係のお仕事をしていたのよ。
　私の場合、
　大雑把で雑でも、
　大体どうにかなるだけの力があるし、
　いざという時はなんとかすればいい。
　けど……
　絶対的に私に有利な状況にある以上、
　それをひっくり返すだけの隠し玉がない限りはまず無理ね。
　そうね。
　少なくとも、
　この世界最強の魔女といわれた彼女を
　どうにか出来るレベルでもない限り、
　私を超えれないもの。
　流石にそんな人材なんてごろごろいるとは思わないわ。」
なるほど。
確かに道理ではある。
だが、
まだ足りない。
それだけでは足りない。
「絶対的な有利の理由と、
　隠し玉がないとはいったけど、
　この国の上層に食い込んでるとなると、
　国軍が出てきそうな可能性はあるんだが、
　流石にそうなると不味いんじゃないか？
　俺がいてもただ一人、
　いくら嬢ちゃんが不老不死だとしても、
　ばれてしまったら対策くらい――」
「対策というなら、
　あの魔女だってやってきたわ。
　まぁ、あの魔女の対策では
　私はどうにもならなかったからここにいるんだけど。
　かといって、
　完全にない訳じゃないといわれれば、
　頷かざるをえないわね。
　どんな手があるかなんて中々分からないもの。
　だけど、あの魔女が私を封じられなかった時点で望み薄。
　そして、私は数いた方が闘いやすいのよ。
　手は明かさないけど、
　そういうものだと理解してもらえればいいわ。
　で、絶対有利なのは当たり前よ。
　向こうはこちらを知らない。
　たとえ、私達が妨害をかけても、
　大きな組織ともなると、
　末端はあまり気にしない。
　気にかけたとしても、
　不振な点がなければいいのよ。
　まぁ、残念ながらだからこそ、
　本番に貴方は必要ないわ。
　もしもの時の保険となる。
　全くね。
　代物が代物じゃなかったら、
　もう少し面倒だったんだけど、
　本当に助かったわ。」
「いったいどんな代物なんだよ……」
「そうね。
　情報くらいは渡しておいた方がいいわね。
　その代物の名前は“幸福薬”。
　飲めば幸福な気持ちになり、
　集中力などが増して、
　仕事等が上手くいくという代物よ。」
幸福薬……
という名前についてはちらほら傭兵仲間が話していたのを聞いた。
入手手段は、
それを持っている人間から、
薬を売ってもらえるように紹介してもらうというものらしい。
まぁ、親しい友人と俺は、
紹介してもらわないと買えないほどの薬を
買う金を用意するくらいなら、
普通に仕事して金を稼いだほうが儲かるし、
そんな薬に頼るほどよわかないと笑ったが。
しかし……
「その薬についてはしっているが、
　それの何が不味いんだ？
　いい話だと思うんだが。」
「確かにね。
　それだけを聞いたらいい話よね。
　そんな素敵な薬を売っているんだから、
　上層に食い込んで理を得るのも当然。
　ええ。
　違いないわ。
　でも、
　それが本当に言われてるような素敵なだけの薬ならだけど。」
「という事は……
　実際は違うと。」
「勿論違うわよ。
　実態はもっとおぞましい薬よ。
　そうね。
　あの薬を飲めば確かに効果は出るわ。
　喧伝するような効果が実際に、
　すぐにね。
　即効性も効果も高いわ。」
実際に効果が抜群にあって、
それでもおぞましく違うという。
そういえば、
強い薬を使うと反動が酷いと効くが、
それほどまでに凄い薬となると、
どれほどの反動がくるのだろうか？
俺が以前に飲んだ一番強い薬だと、
確か、眠気が襲ってきたが。
しかし、あれは反動というよりも、
疲れがどっとでただけと考えれるのもあって、
本当に反動なんてあるのか？
と思わなくもないが、
他に思いつくような要素はない。
しかし――
「……」
「心当たりはあるけど、
　本当に私がおぞましいというような効果があるのか。
　そんな顔をしているわね。
　ええ。
　あるわよ。
　その薬を一度飲んでしまえば、
　飲まずにいると、
　不幸ともいえる症状が襲い、
　その薬から離れられなくなる。
　もっと薬を、もっと薬をと、
　どんどん薬を求めるようになっていく。
　最初は安く、
　次第に高く。
　破滅に向かってその薬を求め続ける。
　その上、
　その薬は心を蝕むように体をも蝕んでいく。
　気がつけば廃人まっしぐら。
　進むも地獄、
　引くも地獄、
　入り口だけが天国という薬。
　これをおぞましいといわずして、
　何をおぞましいというのかしら？」
「確かに、それが本当ならおぞましいが……
　本当にあるのか？
　そんな薬が。」
「あるわよ。
　簡単にいえばね。
　幻覚系の毒草を用いてつくられた毒薬なのよ。
　毒も少量ならば薬になるけど、
　過ぎれば、貴方なら分かるでしょう？」
「……ッ！」
幻覚系の毒草。
といわれれば納得もいく。
成る程……反動が強い、
とはこの事か。
幻覚を見ることだ多幸感を得て、
それが結果的に一時的な幸福、
集中力の向上による能力の増強になる。
なるほど、幸福薬とはよくいったものだ。
反吐がでるほどに上手くできている。
しかし、それは反動というよりは……
「毒の効果をさも薬のように見せかけてるだけじゃないか……」
「そうね。
　まぁ、本当に適切な量であれば、
　痛みを和らげたり、
　本当に役に立つのだけど。
　この辺りは知識の差かしら。
　……ま、いいわ。
　というわけで、
　その幸福薬の取引がある場所へ行くわよ。
　そうね。
　薬欲しさに金がなくて、
　売人を殺し、
　薬を奪って服用したはいいけど、
　そのまま心臓麻痺で死亡辺りがいいかしら。
　演出。
　貴方は誰も来ないよう見張りをお願いね。
　必要があれば適当に因縁つけて追い払って。
　得意でしょ？
　そういうの。」
「まぁ、得意だ。
　なるほど、
　秘密裏に行うというのなら、
　俺の役割はそれくらいだな。
　やれやれ。
　どうやってその演出をしてくれるのかは見せてくれるんだろうな？」
「仕事をきっちりはたして見てくれる分には構わないわよ。
　ええ。
　まぁ、対して面白みはないでしょうけど、ね。
　期待しているわ。
　貴方がきっちり役目を果たしてくれる事。
　まぁ、派手に動くのは、
　相手が最高の絶頂にいる所に横合いから殴りつける。
　これに限るわ。
　――その時はためたストレス全部ぶつけてあげなさいな。
　細々した仕事をそれまで結構頼むけど、
　貴方にとってそれはストレスになるでしょう？」
「どこまで俺の心を見抜いてやがるんだか。」
「ふふ。
　内緒。
　女はミステリアスな方が魅力的なのよ？」
クスリと悪戯めいた笑みを浮かべるクライアントは、
少し薄ら寒いものを覚えつつも、
頼もしくみえた。
全く持って、
嬢ちゃんと相対し、
敵となった人物には同情する。
まさしく最悪の相手だよ。
この人は。

――そして、そのまま計画は実行へと移される。
路地裏の人少ない場所で、
俺は人がこないように目を光らせ、
もしこちらに来ようものなら適当に因縁をつけて追い払う。
ちらりと姿を隠しながら、
奥にいる二人に目をやると、
なるほど、
嬢ちゃんの言ったとおりに取引をしているようだ。
だが、彼女の姿は見当たらない。
いったいどうするつもりなのか。
そんな風に考えた時、
彼女に肩を叩かれた。
「おまたせ。」
にっこり笑ってそういって、
動く気配のない様子の彼女に、
俺は少しあきれてため息をついた。
「ああ。それはいいんだが……
　こんな所で油を売っていていいのか？
　取引が無事おわ……」
るぞ、といいかけたところで、
奥から不意に大きな声が響いた。
「うるせぇっ！
　もっと、もっとだ！
　もっと寄越せェェェェ！」
「まて、落ち着け。
　声がでかい、
　それに約束しただろう？
　金さえ――」
「金金金！
　うるせぇ！クスリを全部寄越せ、全部ぅぅぅぅ！」
明らかに興奮し、錯乱した客の声に、
売人は落ち着いた声で対応するが、
そんな対応が火に油を注ぐ結果になった。
客がナイフをぬき、売人に突き刺す。
死んだ売人から男は幸福薬であろう瓶を抜き取った所で――
「がっ……！
　あっ……ぐっ！
　ち、ちきしょう……ッ！？」
心臓を押さえ、
もだえ苦しみ始める。
瓶の蓋をあけ、
中身の錠剤を取り出し噛み砕くも、
無意味とばかりに倒れ付す。
「さ。錠剤をいくつか採って去りましょうか。
　これで仕事はおしまい。簡単ね。」
まるで、予定調和の如く、
嬢ちゃんが望んだとおりの光景が広がる。
何もしていない。何もしていないはずだ。
だが、こうなった事は当然かのごとく、
魅月は錠剤を幾許か瓶に入れて戻ってくる。
何事もなかったかのように。
「はい。おしまい。
　じゃ、さっさと去りましょう？
　嫌だわ。
　――クスリがどうとかかかわりたくないもの。」
「あ、ああ、そうだな。
　だが、一体――」
「……私の隠し切り札よ。
　人を思い通り動かす事が出来れば造作もないわね。
　どのようにどうやってかは教えないけど。
　――ま、安心なさい。
　いわば報いのようなものよ。」
ああ、やはり、
この人は薄ら寒くなるほどに恐ろしく、
頼もしい。
全く。本当に……
退屈はさせてくれはしない。
精々俺も見限られないように頑張らないとな。
……
男として、やはり……彼女の掌の上というのも味気はない。
たとえ最後までそうだったとしても、
抗うくらいはしてみせたい。
――無論、契約を果たし、彼女の味方でありながら。

まったくもって簡単なお仕事。
クスリを売る側は当然ながら、
クスリを買う側ももう来るべき所まで来てしまっている。
盗み、たかり、詐欺をして、
挙句の果てには人を殺す所まできてしまった。
だから、
彼にはついている。
殺したものの怨霊が。
怨霊に力はなく、
多少あったとしても、
クスリで病んだ心には何も届かない。
誰にも気付かれず消えてゆくだけの存在である、
その怨霊に私は手を差し伸べて取引をする。
あいつの破滅の手助けをする代わりに、
私の頼みをきいてほしいというもの。
そして、私の提案に怨霊は乗ってくれた。
台本はできている。
後はこの霊に任せて私の掌で、
私の書いた脚本で踊ってもらうだけ。
クスリを求めて売人を殺し、
そのまま怨み或る男の体の心臓を止め、
息の根を止め復讐を果たすように。
そして、見事それは成功する。
当たり前だ、
誰にも邪魔されず、
誰にも邪魔できる力はない。
故に失敗する要素は全くない。
せめて……操られ死の運命が確定した男の自我が強ければ別だが、
彼はクスリに壊され過ぎた。
さ、ひっそりと戦いの狼煙を私達はあげた。
気付けずそのまま戦いに巻き込まれ、
果てるといい。
私の無聊の慰みに絶望を味わって頂戴。
これが狼煙である事に、
気付ける人はいるのかしら？

ほめられた！って顔で尻尾振ってる。

魅月さんの手首掴んで止めた。
反対側の手に風の結界で凍気遮断の被膜を張りワカヅキの顔をぐいーっと押しのけ割って入る。