日報を兼ねたこの日記もだいぶ適当になってきた。刺激がなければそんなものだろう。
　女王陛下の安否は私がついている以上、何も問題はなく。日々の介添えも私が居るため不安要素がない。
　最前線をゆく者達はそこそこに激戦を繰り広げているらしいがその後ろを三歩は遅れて歩く私達には意味のないことだった。
　話題は専ら秋の気配と食材である。

「でね、やっぱりそろそろお菓子の季節だと思うの」
「栗に薩摩芋にと」
「そういうこと。ここって食材の鮮度はいいし期待してるのよ」
「薬品の心配も少ないですし、気を張らなくとも良いのは助かります」

　虫害というのは植物を扱う以上、避けられないものだ。避けられないから薬を使う。それは当然のこと。
　しかし世界――文化度によっては恐ろしく危険なものを使っていることがある。そのため騎士はそれらを嗅ぎ分ける嗅覚と視覚を身に付けることを義務づけられた。
　そして提唱者兼教育者である私から見て、メルンテーゼの食物は安全な部類に入っている。危険な薬を多用する域まで文明が進んでいないということだろう。

「あとはお団子ね。きな粉と餡と……あぁ、きな粉ってここにもあるのかしら」
「たくあんとおむすびがありますから大丈夫ではないでしょうか」

　既に頬を緩めつつある女王陛下に苦笑する。
　何でもない時間が過ぎていく。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。