さて、ようやくもどってきた猫たちですが、ちょっとこまったことになりました。
あのあと、キーさんにもてつだってもらえないか、そうだんしていないのです。
ししょーたちのときのように、またさがさなくてはなりません。

ただ、あまりのんびりしていられないのもたしか。
ばあいによっては、このままちからをおさえこんでしまったほうがいいのかもしれません。


どうしたものかとなやんでいる猫たちのもとへ、いがいなひと（？）がたずねてきました。
まるでひとのようにあるいてはなすきつね――セリィおねえさんのエンブリオのきつねさんです。


どうしてそのきつねさんが猫のもとをたずねてきたのでしょうか。

そのこたえはとってもかんたんでした。
おねえさんはいよいよおうさまのおしろのおくふかくまでのりこむようです。
ですが、そのさきにはとてもつよいきしがまちかまえているらしいのです。
そこをとっぱするためにはひとりでもおおくのひとがひつよう。
だから、猫のちからをかりにきた、と。


それをきいたときの猫のきもちはとてもふくざつでした。


しのおうさまのときにセリィおねえさんときまずいままわかれてから、猫のなかではもやもやがのこったまんまです。
またおねえさんにあったら――あのおねえさんのおびえたようなめにたえられるじしんがありません。

それに――おねえさんほんにんではなく、きつねさんがきたのもきっと猫のことをおそれてのことでないでしょうか。



だから、猫としてはことわりたいきもちがあったのもほんとう。


でも――

もし、猫がてをかさずにおねえさんがきしにまけてしまったら。


いつかのスチュおにいさんのことばが猫のなかによみがえります。

君はこの革命の中で痛い目に遭ったことも多かったと思うし、これからもっと酷い目に遭うかもしれない。
それに、革命に加勢している人は、新王から見ればただの邪魔者だ。
……もし王を倒すことに失敗したらただじゃ済まないだろう。
よくて囚われるか、どこかに押し込められて働かされるか、最悪――


……処刑されるか、二度と出てこられないような世界へ追放されることだってあるかもしれない。
それでも、君は、そんな理由でこれを続けるの？


―――猫のしらないうちにおねえさんがおうさまによってころされてしまったら。



そうおもうと、きらわれるいじょうのおそろしいきもちが猫をおそいます。
きっと、そっちのほうがたえられない。








――たとえおねえさんにきらわれたとしても、じぶんがおねえさんをまもるんだ。

こたえは、猫のなかできまっていました。


てのひらをみつめ、ぐっとにぎりこぶしをつくります。
いま、このからだにやどるちから。
おそろしいちからだけれど――おねえさんをたすけるのにひつようなちから。



『ししょー、セバスチャン、シュテルンも。
小生、ちからをおさえるまえに、ちょっとだけよりみちするのです。
…いっしょに、きてほしいのです。』

やや不満そうにそう答える。

こちょこちょとくすぐりながら、わらっているロク＝リクくんを見て、
そのあまりのかわいさに、おにいさんの頬がゆるゆるに緩みます。
しかし、ずっとくすぐっているわけにもいけません。
ロク＝リクくんは笑いすぎて苦しくなってしまうし、
ブルーノおにいさん自身の爪はまたすぐ伸びて、削る前のように尖ってしまう。
そうなると危険です。

ぱっと、くすぐっていた手を離し、それからすぐに、ロク＝リクくんの体を、ぎゅっと抱きしめようとしました。

　　　　　　走るロクを捕まえたシロちゃん。ご機嫌でペロペロしまくる。

同じことを思ったのか、隣で軽く引いた表情をしていたレッドドラゴンが、ロクの前にそっと火を差し出した。

ししょーのツッコミも何処吹く風、とニヤリ笑って見せたが、

それを取り入れてー、とロクのポーズを参考に新たなカッコイイポーズを模索し始める。

調子に乗ってめっちゃ体を変形させたものだから、幼児が作ったすだれか何かのような、デローン……と頭上から滴るような形になっている。
もはやポーズとかのレベルではない……が、天井から落下してくる途中の、ある種スライムとして正しい姿勢にも見えなくは無い。

慌てて振り向くも、もう書類は何処にも見当たらず、唖然とした表情になる。

ししょーの気も知らずに子供のようにプンスカ怒っていたが、ふと何かに気づいた顔になり、

おそらく「言ってみたかっただけ」のセリフでロクに向かって見得を切った。