気が付けば狐面の狐が居なかった。
　あれは確か――この世界在らざる“何か”で、“彼女”の手がかりだったはず。
　キーはそろそろと扉から顔を覗かせ、問い掛けた。
「あの……ね。その、……マオフウは？」
「消したよ」
「消し……っ」
　キーエは“龍”である。
　ある世界を管理するシステムの一部のような存在である。
　だからこそ感情を持たない。罪悪感も持たない。
　だから昨日話した誰かを世界の害悪だと消去しても、気にとめない。疑わない。
　そんなキーエだからこそ『消した』という言葉は冗談に聞こえなかった。
「転送？」
　が、惚けたように行った次の言葉にキーは安堵する。
　と、同時に首を傾げた。
「ね、ねえ。マオフウはその……」
「はっきりしないね。姉上の手がかりだっていいたいのかい」
「そ、そう！　てさぐり！」
「……手がかり」
「てがかり」
　キーエはひとつ溜息を吐く。
　面倒だ、という仕草をする程度には人間くさい。
　そういえばそんな仕草をするようになったのはいつからだっただろうか。
　そんな思いも、仕草すら龍には要らないのに。
　それを思えばそもそも『姉を探す』という思いすら『エラー』である。
　最近は少しだけ、キーは、キーエに対して疑問を抱く。
「キーエはおねえさん……さがしたいんだよ、ね？」
「………」
　細い目線を向けられる。
　まるで睨まれているようだ、と、キーは思った。
　そんな視線すら、あるはずがないのに。
「知らない。いらない。大体姉上は既にお役目を放棄した」
「でも、キーエは時々探してるよ」
「………」
「キーには、おねえさんとか、かぞくとか、わかんないけど。ここに来て、色んな人を見てきておもうよ。キーエも少しだけ、人間――」
「キー」
　絶妙なタイミングで名前が割り込んだ。
　びくりとする。
　ひどく、ひどく、その声は冷たかったから。
「僕達は人間を間引くけど、元来は人間を観察する為の存在だ」
「う……うん」
「だから君を創った。人間の心を理解する為に。よりうまく、人の中に紛れる為に。
　君は成功した。けどね、失敗でもあったよ」
「…………」
　キーエは溜息を吐いた。
　――これじゃあ、姉上と同じだ。
「………キーエ」
　キーは尻尾を垂れた。
　何よりも忠実に、そして、そう在らんとしていたことを知っている。
　その姿は何処か焦っているように見えてしまった。
　“人間”を知る為に生み出された自分が、“主”を慰めるなんてどんな皮肉だと思う。
　しかし言いたかった。
　人間のように。
　家族のように。
　そして知らず言葉が流れ出た。
　まるで、他の誰かの言葉みたいに。

「どうして天はそんなお役目を課せたの、かな？　――出来る訳が無いのに」

つらいときにはげましてくれて、いきることをゆるしてくれたキーさんだもの。

あぁ、そうか。
にんげんだとか、そうじゃないとか、そういうことじゃないんだ。

ないて、わらって、なやんで。
そうしたおもいをもてるじぶんは――ほかのだれかとわかちあえるじぶんは「ひと」なんだ。

まだまだ、まようことはあるけれど。

だからこそ、けっしてなげやりなきもちでじゃなく、あの「やくそく」をキーさんにならたくせる。



ふふー、っとわらったキーさんにはっときづいていしきがひきもどされました。
ぼうっとしてた？とめをぱちくりさせてキーさんにむきなおってはなしのつづきにみみをかたむけます。

はなしのないようだけでりゅうのことをかんがえるならば、たしかにおそろしいそんざいといえるのかもしれません。
でも、キーさんのかたるりゅうのすがたは、じぶんがみてきたふたり――キーさんやキーエさんとはむすびつかなくて。

もしじぶんがそのこのたちばだったら、どうかんがえるだろう？
にんげんのてき、ともいえるりゅう。
そんなりゅうは、けれどもおそってくるどころかじぶんからにげて―――

たしかにりゅうがひとのてき。でも、であったりゅうはどこかちがってて。

しって、いまのキーさんたちのように、ともだちになれるかもしれないもの。

そのせかいのひとたちにはあまいかんがえだ、とわらわれるかもしれないけれど。
これが、じぶんのだしたこたえ。

これでいいのかな、とちょっぴりふあんそうにキーさんたちをみています。

そう言う少年の言葉にも特別悪意は感じられない。

また少しばかり混乱しそうである。少し深呼吸、間を置いた。

ぬいぐるみはぬいぐるみである、幾ら喋ろうが表情は変わらない。
それでも少年は笑みを浮かべた。

そしてグノウの聞いて、ふと。

至近距離で叫ばれた為もろに耳に入ってきて思わず頭を押さえる。
と、同時にそんなにトラウマにさせてしまったのか、と改めて思い…

あまり長居しない方がいいだろうか、と思ったが少し落ち着いてきた相手を見て

何をきっかけにこわがらせるかわからないな、と考えながら質問の答えに用いる言葉を選ぶ。

それから続く問いに眉を寄せる。「優しいひと」かと問われて、なんと答えたものか…と

貴方の雰囲気の変わり様に驚き、竜というものはわからん、と呟く。

臭いを嗅がれたことに抵抗はしないものの、顔を顰める。
人間の汗と若干の獣臭さ、土の臭いと在り来りな臭いがしただろう。

いや、出てくんなとかそう意味じゃなくてな、と。
遠慮がちに、喰われないか警戒しつつ、
腕のそれなりにふわふわしてそうなところへ手を伸ばす。

スズメが何か紙切れをくわえている。
"付加23とか　使ってくれる人　いたり　しますか？"