言いづらそうにする様子を目を細め少し首をかしげて見ていた。何事だろうか、と。
やっと出た言葉に、「ああ」と短く声をもらす。

そう　いって　ふんぞりかえる　ぬこ
ウィルトは　あいもかわらず　クッキーを　たべている

あせる　ウィルトに　ぬこは　ずうずうしく　クッキーを　うけとり
ぱくんと　ひとくち

あくまで冗談のつもりだったのでそれ以上は何も考えてなかったらしい。

少し黙り込んだ後。

正直に白状する事にしたようだ。

　きらーんと目が鋭く光ったような気がする。

　さて、どうやって言いくるめるべきか。
　狐色の脳細胞が火花を弾けさせるほどに猛然とした回転を開始した！

　尋ねながら考える。成長著しい5歳の子供に若返りを仕掛けるなど、どこに歪みが出てもおかしくない。
　停滞ではなく、巻き戻さねばならぬ理由。
　親の死に関係がありそうじゃな、と顔色には出さずに予想を巡らし。

　耳を疑いながら、まじまじと少年を見返して。

　頼みながら、自らの尾から一本の気を引き抜いて呪を込める。毛は、瞬時に黒く染まり鬼の姿を造りだした。
　周囲の瘴気を集めて造った小鬼。普通の聖水なら溶けて消える。強ければ爆発四散することもあるが――。

　話題を変えるという発想はない。同情した振りなら出来るが、堕落を楽しむ気分でもない。
　素直に泣けぬならば泣かせればよいのだと、狐は思う。
　悔しい時、苦しい時、涙とともに悲しみを吐きださねば、ずっと心の内に澱んでしまうのだから。

　異なる世界の話を聴くのは、狐の趣味でもある。
　魔法にも色々あるとは聞いていたが、どうやら彼の属する大系は更に異なっているようだ。
　ふんふんと、興味深そうに耳を傾けた。

　呆れた声を返し。何か莫大な対価を背負わされているのかも知れないと思い直す。
　いたいけな少年を手籠めにする為だろうか。うらやましい。いや、ゆるすまじ。

　髪の毛を掻き分けて産毛をくすぐり、うなじに触れて熱い吐息を吹きかけて。
　赤く染まる耳をかぷりと甘噛みし、お尻をさわさわと撫でまわす。
　もちろん、まったく探す気はない。胸を腕に押し当てて、抱きかかえるように触れていく。

　師匠とやらを挑発しているつもりだが、だんだんどうでもよくなってきたのだった。
　遊び人かと思うておったが、なかなか純情な表情を見せてくれると妖艶な笑みを浮かべ。