『いつかこういう日が来るとは思っていた』

社長は自分の座っている椅子にエンブリオの魔力をこめた。すると彼がイメージした通りに椅子が動く。当たり前の用にこなしているが、この世界にきた当時にはとてもできなかった芸当だ。

今まではどうしていたかというと、エンブリオのノームを椅子に宿らせていた。社長の椅子はノームの意志を持ってのみ動いていたのだ。

椅子の試運転を終えて社長は椅子から降りる、手に持っていた杖で自分の肩をトントンと2回叩いた。
そして椅子に向かって、こう語りかけた

社長の椅子は動かなかった。

社長とノームは会話をしたことはないが、椅子を通じてYES/NOコミュニケーション取っていた。声を出せないのにしゃべり好きなようで、語りかければ今まではなにかしらの反応を占めていた。

語りかけたのに返答がないというのは、今回が初めてだった。

社長は再び椅子に座る。そしてエンブリオの魔力を椅子にこめる。椅子は彼のイメージした通りに動いた。
もう二度と自分の意志以外でこの椅子が動くことはない。社長は、それを望ましいこと思いながらも、同時に一抹の寂しさを感じていた。

　社長の長広舌に、ポポロは能面のように表情を張り付かせる。急速に目の前の人物に対する興味の一切が失せていく。
　――つまらない。
　ただただそう思った。なるほど、確かに自分には到底理解できそうにない内容だ。
　花は、隣にある花が美しいなどとは思わない。
　目を伏せて、息を吐く。この長ったらしい話が終わったらさっさと引き返してみんなと合流しよう。そう思った。
　最後のひと言を聞くまでは。

　顔をあげて、ポポロ・ダンドリオンは笑う。

　そこでポポロは笑みを緩めて、小首を傾げる。

　これはホントですよ、と。
　タンポポ荘の管理人は、やっぱり笑うのだった。

ニスイの傍に控えるエンブリオたちを指す。
狼のエンブリオたちは、そうあるのが当たり前であるかのように、常にニスイと寄り添って行動している。
たとえネクターが今ほど手に入らないようになろうと、それは変わらないだろう。

社長に合わせるように酒を呑む。
この世界にやってきた当初は、狩りで食いつないできたのだ。
この世界は贅沢さえしなければ、生きていくのにそう苦労するような過酷な環境ではない。
ニスイが楽観的であるということは否定できないが、
大量のPSが手に入る機会が多く転がっている現状を考えれば、あながち間違っているとはいえない、

社長の会社を立ち上げようという提案に、即答で返した。
酒の勢いというのもあるだろうが、始めから社長を信頼しているのだ。
そうあるのが当たり前であるかのように。

持ってきた酒を飲み尽くす勢いで、ニスイは大いに喜び、酒を煽った。

急いで離れた場所にいく。

武器を構えた。