平安京に帰ってからこっち、多少の報告事項はあったものの、仕事らしい仕事も無く、穏やかに過ごしていたツナちゃんは急に頼光様のお屋敷へと呼び出された。

　大江攻めの勝利報告が入ったのだろうか？　

　ほんの数日前に別れたばかりなのに今はもう懐かしい江山の住人の顔を思い浮かべ、何人かは生きているといいなと思いつつ、生きていたところで自分が顔向けできるわけもないなとため息をつく。


「総大将が討ち取られ、現在の兵力は残すところあと六百といったところ……部隊には一度兵を退くよう伝達した」

「は！？　それは真にございますか？　」

　普段は飄々とした感のある頼光様が、今日ばかりは苦虫を噛み潰したような表情で頷く。

　３千の兵が３日で壊滅し、敗走。
　常識では考えられない状況に「何故？　」という疑問が浮かぶ。

「まさか……お館様の出兵は我々の目論見を看破した上での誘い……実際には大江の山に？　」

　頼光様が黙って首を振った。

「いや、確かにお館様は江山を離れて因幡攻めをしておる。もっとも、それも今日には終えて江山へと帰還するであろうがな」

「では、何故……まさか、防衛の為に兵を隠し持っていたのですか？　」

「報告によると、綱殿が嘘を報告したとか、謀られていたというような話ではない」

「では、何故？　まさか、討伐軍の中に裏切りが？　」

「それも違う。単純に大江山に攻め込んで、武によって負けたのだよ。討伐軍は」

　三千の兵が３日で六百に？　如何に江山の兵が精鋭揃いとはいえ、孤立無援の状況で何故？
　様々な憶測が浮かぶが、そのいずれもが答としては不合理であると打ち消されていく。

「すぐさま追加の兵を出すのも考えたが、闇雲に犠牲者を増やしても仕方が無い……一度兵を退き、報告を聞いてから改めて策を練ることと相成った」

スズメがそわそわ鳴いている。

木で作られた台に乗って、踊りながら歌っている女の子がいる
１曲歌い終わると、ちらほらいる観客に向かって話しかけ始めた