――現世と常世、此世と彼世、生者の世と、死者の世。
　まるでこの空間こそ、そのすべてを混ぜたものであるようだ。
　不死の王――ノーライフキングに対峙する彼の女は頭の片隅で小さく呟いて、結んだ唇の唇の口角を緩く持ち上げた。
　ふ。と零れる息の色は、死人程は透き通らず。生ける者よりかは、薄い白。
　重苦しい大気を濁すには余りに薄過ぎる少女の吐息。尤も、ただの葛の葉たる矮躯の魔が、此世の空気の全てを染められる筈も無く、吐き出された息は瞬く間に、飲み込まれるように消えていく。
　景色は途端に真っ暗となり、燭台の灯りも何も存在しない深淵。世に溢れる色と云う色全てを塗り潰すような……或いは攫って零にしてしまおうとでも、目論むような黒色。目の前の其れは、ようよう目を凝らして見なければ黒の背景に溶け込んでしまいそうだった。
　漆黒の世界の中にぽつんと佇む、真っ黒のコート。まるで染まり方を忘れた愚れ者の様だとも思ったけども。

「―――」

　其れも当然か。其れは真に愚かである。《王》に会うなど、ただの駒が《王》に謁見を許すなど、あってはならない。黒に染まる彼女の体はどこか、異色とさえ、異端とさえ思えてしまう。
　特段、何か用があったわけではない。ただこの世界にかの不死王がいるならと、己を操作する真の主がいるならと、思ったまで。
　思っただけだのに――気付いた時にはそこにいた。
　《王》の一端が、世界の創生者が――彼女を指先で転がせる相手が応対する。
　息をするのを、しばらく忘れていたことに気付き、空気を求めて喘いだ。そのまま息をしなければ死んでいたのだろうか、植物は酸素を受けられずに枯れ果てていただろうか。

「―――……、」

　静かで、無口で、死の悲しみを押し殺す哀調を帯びる風かとも思えば、静かで、無口で、死の優しさに微笑み微睡む穏やかさ。
　冥府の氷牢から削り出した水晶の鈴の弔鐘めいて、しゃらしゃらと偽の耳を掠める。
　そんな涼しい音色を聞きながら、《王》をしかりと見遣った。

「はなのこよ―――」

　《王》は愁うように吐き出す。途端、脳が焼き切れるかのような熱が駆け巡る。けれど痛みはないのだ。ただの幻覚、ただのまぼろし。

「はなの……」

　くたんと静かに頸を傾ぎながら。耳を傾けたのは、花の声。呆気にとられて言葉を紡げない妖。
　実体の見えない仮面は優しい色合いを示していた。聖母のような慈愛を、すべての懺悔を聞き入れる神のように。

　――ただ純粋に目を奪われた。
　妖の不躾な眼差しは、ただただ揺らめくばかりの沈黙的な面に、ひたすらに注がれる。
　然し流石に、数分もすれば、己の愚行に気が付く。はたと我に返って慌てて視線を外し、謝罪を紡ごうとして―――言葉は失われる。
　為そうとすることはすべて曖昧となる。言葉を選ぼうとしても、蕩けたクリームのように、不安定な様相を示した。

「御前は――何もしなくていい」























「何も考えず、すべてを捧げよ」

花は倖せを求めた。綺麗に咲く事が己の存在意義であり、己の唯一の長所だ。
けれど、一度としてそれを手に取れた事は無かった。

その手を届かせるために、自分を傷つけて、殺して。
――あぁ、なんて馬鹿馬鹿しい。
己が、そんな己が誰かを幸せにできるだろうか。その定義を問うことも、説く事もできようか。

なればこそそれを、分からせなければならない。

少しばかり申し訳なさそうな表情の相手に不思議そうにしている。

手を取られると頼って貰えるのかなと思ったのか、嬉しそうに笑っている。

　
袖からツタがのびれば

　

　
驚いたり。
召喚術などを使うのだと言われればますます興味深そうに蔦を見たり。

　
分析が始まりました。

その目はどこか少し泳ぎ気味

相変わらず目はどこか違う方を向いています。

背中のリュックから取り出したのは包丁やいろいろな器具
手慣れた樣子で貰ったハチの巣を解体していきます

　恒久に続く平和など幻想だが。平和ボケしない程度には平和を満喫すべきとも思う。

　捕獲し、適切且つ安全な環境に置いて観察する。それが互いにとって一番傷つかぬ手法であると考える。

　元より閉鎖的な社会だったので、この様な変化は多少は良い影響もある。と思いたい。

　つまらぬ好奇心で尋ねることではなかった、と後悔。

太陽光を気にして戦闘するというのは中々に億劫そうであった。
自分が同じ立場なら、我慢できずに太陽そのものを雲か何かで覆い隠そうとしたかもしれない。

脅威に見えると言われれば、若干嬉しそうに。

性格は当時とまるで変っていないようであるが。

偽の呟きを聞けば、そうそうと頷いて。

あっさりと言ってのける。
総合的に、そういうのができる人種とできない人種というものに分けられるのだが、彼女は限りなく前者だった。

魔王城の周辺のダンジョンと聞けば、思い返して。

モンスターではなく、農場を思い浮かべながら、その一致具合に納得の頷きを返す。
彼女の城の近くには、畑が広がっているのである。

初々しくもどこか懐かしいという感情。
昔の自分もこんな風だったのかなと思いつつ。

一度は彼女も経験している。この世に残り続ける者の宿命であろう。自分だけ、取り残されてしまうこと。その覚悟を。

細めた目で花を見下ろしてから、
再び偽へと視線を戻す。

だから、この花がお前であればいいと思った。

そう言った。
寄り添う花の息吹に、ひとの名残を感じられたなら、
それで少しでも、心を慰めることができただろうから。

　フォローなのか何なのか。まあ、その声音は柔らかいものであったが。

　

　どこか幼く見える彼女を前にして、年相応の笑みを見せた。

ラウ、と名乗った猫を見やって