立ち止まった私に、先生が声をかける。
一日の探索を終え宿舎に戻る途中、ふと、沈み行く太陽に見入ってしまい 足を止めてしまった。

夕焼けに照らされたグリーンパレスの遊歩道は、一揆の激しさをそっと 置き忘れているかのようだ。
その、いつか見たようにも思える景色は、私の心を、どこかに帰す…

目を細めて手をかざし、青から赤に変わってゆく空の色を眺め、呟く。
日が経って、少しは落ち着いてきたけれど…　やはり時々、彼のことを思い出してしまう。

振り向くことなく、頷きだけを返す。


色付いた舗道からは、懐かしい風の香りを感じる。
彼も今 どこかで、私と同じ夕陽を見ているのだろうか…？

先生が、問いかける。



彼に、本当に言いたかった言葉…



すごいわね。と、讃えるべきだったのだろうか？

確かに、死の王を討ち払ったその力には驚いた。
　　けれど力を求めることが、彼の望みだっただろうか…



おめでとう。と喜ぶべきだったのだろうか？

確かに、望む通りに死の王との契約は果たせた。
　　けれどその契約を、彼は真に求めていたのだろうか…



私は彼に、どんな言葉をかけるべきだったのだろうか…？






　　いや。






　　違う。




'' かけるべき '' 言葉じゃない。



伝えたかったのは…



私が、彼に届けたかった言葉は…

枯れることを知らない涙。
その色は今でも 真実を打ち明けてくれた、あの時と同じ…

黙って ただ夕陽を見つめる私。
後ろに居る先生の姿は、見えない。囁く様な声だけが、聞こえる。

投げかけられる 揺るぎない言葉が、心の奥へと満ちていく。

このまま、もう逢えなくなってしまうような、そんな気がしてたけれど…

疼く衝動を堪え切れず、許しを請う。

一瞬 訝しむも、すぐに解ってくれた様だった。
軽く微笑むと、先生は少し離れたベンチに腰を掛けた。

遠く、山の稜線に沈み始めた太陽に、向き合う。
一歩踏み出して、大きく息を吸い込み、吐き出す。

もう一度。すぅ。はぁ。

すぅぅ…　はぁぁ…



すぅぅぅ……



腹の底から。吐息に想いを混ぜ込んで。
仰け反るように身体を反らせ、天を衝けとばかりに。

空を見上げれば ひとり。
一途な情熱が、ふわふわと 笑っているようだ…

想い、重ねても ひとり。
光にさらして、この胸を焦がそう。

いつまでも響き続ける、声。
どこまで届くだろう…？　





また貴方に…　逢いたい。