花色の魔法―flower magic―

幻術系基礎魔法のひとつ。極めて単純な術式。


色素の洗練[すこし鮮やかにすること]。


から進んで、


色素の變化[色を変えること]。
色素の懐柔[濃淡を自在にすること]。
色素の開花[より鮮やかに深みを出すこと]。


の三段階に分かれ、下に行く程練度を必要とする。
低レベルでは実害が少なく、変化が分り易い為入門仕立ての術として採用する師が多い。
魔術の素養のある子供は洗練の段階までならば無意識の中で扱っている事もあるようだ。

そうして又、地味な割に段階が多い為、基礎の習得で満足する術者の多い魔法で、
修練を積んだ所で向けられるのは賞賛ではなく、変わり者か好事家のレッテルであったりもする。

「結構、便利なのにね…。」

砕いた色粉を袋から取り出し、桶の中に汲み入れた水へと放つ。
指先を差し入れて2、3度掻き混ぜると最初は抵抗していた色の粒が一斉に、
境界を失くして水に滲み出した―――渦を描いて。

　　　　　　　　　　　　「何色が好き？」

そんな事を聞いたのは久しぶりかもしれない。
色の必然は無かったから、何色でも良かった。
敢えて言うのなら強い色。存在を染め変えてしまうような。

襟足で絡げていた髪を解くと、見せかけの短い髪から尻尾が梳き落ちる。
前留のシャツの上2つ、ボタンを外すと首周りを開いて髪を桶へと少しずつ浸していった。

（あれ、そういえば雰囲気変わったって言われてたんだっけ。
　…次会ったらもっと言われちゃうかな…。）

考え事をしながら、頭皮に近い部分まで少しずつ水濡らした手でなでて行く。
清水に取り替えて余分ないろを流したら、水に濡れた指で術を扱う。
こぼれだす【Ramiel】の名前と、応じて生まれながらの其れのように定着してゆく色。
滴る雫を受ける大地に被さる宵闇を吸い取るように。
これで伸びる髪がちぐはぐであるとか、旅の途中で色が抜けて行くといった不都合は大分負担が減る筈だ。
色粉を使って実際染めている分、術に割く力も減るしごまかしも効く。

「まぁ…幻術を全くに打ち消す程の『絶望の目』の持ち主には意味がないらしいけど。」

ツートンに、内側の髪に赤を入れているから仄かに透けて赤み掛かる黒。
染めた髪から染めた髪への移行を感じさせないくすみのない色だった。
ひとりごちて小さな手鏡で出来を確認すれば黒髪の娘が間の抜けた顔をしている。

「よし、完了。」

納得したようだ。

そして言われたとおり、このまま一日過ごすつもりのようだ。
奇異の視線が普段以上に酷かったとか、そうでないとか。

言いつつ耳の上あたりをさして

判ってるのかーとくすりと笑い

そういう考え方もあるのかと

う。とすこし濁った変な声を上げて、よくわかるね。と照れた様子

思ったより色々考えちゃったなぁと笑った