イチジクは本当に可愛いね。
魔界で一番大好きだよ。

座ったまま、包みこまれるみたいに抱き寄せられる。
頭をポンポンと撫でられる。
甘えるように胸に頬を寄せれば、頭上から、ちょっとだけ調子のはずれた鼻歌がきこえる。


至福の時間。



でも、消えてしまった。
自分の願いのせいで。


だから、これは、

「イチジク？！」

ギョッとしたねこっぱちの姿が何故だかぼやけて見える。

「どうしたの？大丈夫？」

冷たい肉球が頬に触れて、初めて自分が涙を流していたことを知る。

「怖い夢でも見たの？」

九は軽く頭を振って否定する。

「何と無く、幸せな夢、だったと思う…けど…」
「……けど？」
「寂しかった。」

夢だってわかってたから。

ねこっぱちの耳が一瞬ふにゃりと垂れるが、すぐ気を取り直して「気にしちゃダメだよ！ただの夢だよ！」と九の頭をぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫だよ、イチジク！ぼくはちゃんと居るからね！」

ぽんぽんと撫でるように叩く。

九は軽く目を閉じながら夢の再現のようだなと、思う。


わからないことがたくさんある。
原因不明の頭痛。
感情移入できない自分の過去の記憶。
悪寒がするほど魅惑的な声。
自分を見つめる満月の猫目。

ねこっぱちはそれが何かを知っている。
しかも自分から隠そうとしている。

そして、それは今日見た幸せで寂しい夢に関係あるんだと思う。
わからないことがたくさんある、とわかった。
早くスッキリさせたい。


ポンポンと心地よい加減で撫でる手に免じて、今日は質問責め勘弁してやろう。