しあわせにしたい、と言ってくれたひとがいる。
自分にそんな価値のないことを誰よりも知りながら、どうしようもなく胸が詰まる。

娘になるっていうのはどうだろうね、と言ってくれたひとがいる。
自分の “家族” を、かつて私の存在が如何様にしたのかをわかっていながら、どうしようもなく泣きたくて。

言葉。笑顔。取り交わされる人々の関わり。
かつての私が、その内から疎外されていたもの。
居てはいけないのだと思っていた、信じていた場所。
そこに今は、私の手を取り、迎えてくれようとするひとがいる。

明確な言葉にすることがなくとも、僅かな間にもともに歩み、会話をして、あるいは戦って。
拒まれることのない、その、不思議を。

けれども、そうして結ばれる何かが、少しずつ、少しずつ太くなるにつれ。
それ以外の誰かや何かへ力を向ける、その忌避感が、やはり少しずつ遠ざかっていくのを、感じる。

奪われたくない。そしてそれと同じほど、奪いたくない。
そう思っていたはずなのに。

自分ひとりきりなら、ただ身を固くして、暴虐の過ぎるのを待てばよかった。
けれど隣にいる誰かを、他の何かよりも少しでも大切に思ってしまうなら、そのために、何を見て見ぬふりすることもできなくて。
損なわれるのを黙って見過ごしてはいられない以上、どうしても。

力を振るう。何かが損なわれる。奪ってしまう。
優しくしてくれるひとたちは、私に怪我がなくてよかったと、無事でよかったと言ってくれる。

私は、私を拒んだ村人たちと同じに。
己の境の外側を、いつか、容赦なく切り捨てられるようになるのだろうか。
あれほど切り捨てられる痛みばかりを舐めていたのに、それでもいつかは、それを忘れて。

奪われる痛みを忘れることは、かあさんを忘れることだ。
そう思うだけで、今はもう玄雲のいない罪のしるしが、ざわりとざわめくような感じがする。
けれど、追いかけてくる罪への恐れに呑まれそうになったとしても、誰にも助けを求められない。

誰か、と求める先に誰が居たとしても、その交わりこそが、罪を勧めるのだから。

プルは、2つに割ったカップケーキを差し出した。
カップの残った部分は燈子に、割られたケーキだけの部分は自分が手掴みで。