この力の下では不要な存在だ、というその一言が、頭のなかで頭痛と混ざり合いながら鳴る。力の乗りもの、自らとは異なるある本質を、かりそめ表す一態、行為の主体から自らを遠ざけるその徹底された忠節、頷きがたい諦念を抱いた強者への反感が私の苛立つ靴音になる。

広間を離れて鳴らす廊下に人影はちらほらと集まり始め、ゆっくりとたしかにこちらへと歩み寄る。黒騎士の霧からもろもろに派生するエンブリオあるいは異形のからくりを見切ることはできなかった。見当はついている、しかし探り当てる確証がない。

三階廊下にずらり並ぶ扉のひとつを蹴り開け、変わらぬもぬけのからの室内を足音高く横切る、虫喰いの書棚を行き過ぎ絨毯を躙り、部屋奥に沈黙する上質な樫の書見台に足をかけ、窓を開け放った。夜風。

色褪せた羅紗のカーテンが重たげによろめき、ぬるい温度が頬に触れた。城外には森や川が広がり、少し角度を変えれば広庭の端も視野に収まった。革命を進める者たちの夜営の明かりがちらほらと夜に燃えていた。窓枠にかけた左手から光の羽根が一枚、聖性の面影にこぼれた。

ルヴナンを指に砕き、夜のうちへ香りを流した。口笛を森の向こうに吹き鳴らした。人手を要していた。少しばかりは手を取り合える取引の相手を。幸いにして一人とはいくつかの言葉を交わしていた。

部屋のなかの衣裳箪笥から引き出した衣服を裂き、カーテンを裂き、それぞれ結び合わせ、真鍮の燭台を重しの代わりに先端へくくりつけた。即席のロープを仕立てる必要があった。相手は城の外から来るだろう。三階への道筋を仕立てねばならない。城攻めにはそうした方策もあった。階段だけが通路ではない。