ヴァランタンの日課の一つに、朝の鍛錬があるらしい。
昨日ミルザと出かけているうちに、ユキナが相手を務めたようだ。
自分も誘ってほしいと言うと、ヴァランタンは喜んで早速翌日に卯の花腐しを鍛錬に誘ってくれた。


初撃の踏み込みが驚くほど速い。
しかも彼の獲物は槍なので、体の動きに気を取られていると、ぬっと伸びた穂先の刃に斬られそうになる。
懐に踏み込めば今度は蹴りが飛んでくる。
何気なく風上を取ろうとする。
一見無秩序なそれらを、彼は戦いの型として不思議と一つに纏めている。
これが戦場となれば、足元の土塊ひとつ、石ひとつ、風の向き、光、影、天候、
それら全てが彼の武器となるのだろう。


ヴァランタンは随分卯の花腐しとの打ち合いを気に入ったのか、
（或は相当気に入らなかったのか）、
もう仕舞と言って切り上げても不意打ちを仕掛けてくる有様で、
そういう所はなんだか子供の遊びの駆け引きのようだ。

まさか食らう訳にもいかず鳥になって逃げてしまうと、
自分の事は棚に上げてずるい！と口をとがらせる。

そして卯の花腐しはそれを笑って許してしまう。



全くの所、ヴァランタンと言う傭兵がもつ不思議なちからの一つに、
周囲を和らげる童子のような愛嬌がある。

先ほどからコロを警戒しながら、逃げ回っているようだ。

照れくさそうに頬をかく。

言うか言うまいか迷った様子で少しの間黙り込んでいたが、まあいいか、と口を開く

白い布を差し出されて驚くが、
ランプのお返しだと言われてそっと受け取る。

採って来た葉や木の実を抱えてそわそわしている。

卯の花腐しが持ってきてくれた桑の実４つと野苺８つを大喜びで受け取り、
さっそく野苺を１つ、口に放り込んだ。