先見の塔で待ち構えていた王の配下のハーピーを退け、アクアパレスへの進攻ルートは確保した。
しかし… 結局 次の進攻先に選んだのは、アクアパレスではなく 一度は探索を取りやめたグリーンパレスだった。

アクアパレスへの進攻ルートを確保した直後に入って来た一報。
道中に立ち塞がる王側の部隊が精強で、進攻していた小隊が撤退を余儀なくされたらしいのだ。

王の部隊と交戦したその小隊は、相当の手練れとの噂。
それが退けられてしまったというのだから、私が向かったところで歯が立つ筈もないだろう。


身を潜め、兵士の目を避けて…とも考えたが、情報によると配備されていた部隊は人数も多いようで、
警戒の網を潜り抜けて先へと進むのは難しそうに思えた。

現時点でアクアパレスに進攻しても、ただ追い返されるだけ…

そう考えて、障害の少なそうなグリーンパレスの再探索に切り替えたのだ。
先生は、励ましの言葉をかけてはくれるのだが…　やはり、力が及ばないという事実を突きつけられるのは悔しい。

溜息をつき、グリーンパレスの遊歩道を歩く。
舗装された道を進むのは、砂地や山道の行軍に比べ楽なはずなのだが…どうにも足が重い。

隣を歩く先生が、私を見上げて声をかけてきた。

そういえば、最近は 声をかけられても相槌を返す程度で、口数が少なくなっていたことに気付く。
それに、黙って歩き続けるのは気が滅入る…というのも確かだ。話しながらの探索も、いいかもしれない。

前を向いたまま、いくらか歩幅を緩めて 口を開く…

最後はもう、こみ上げる嗚咽で 言葉にはならなかった。

雫を拭ったハンカチを鞄に戻し、緑に覆われた遊歩道を眺める。

木漏れ日が優しく身体を温め、さわさわと吹く風が、とても心地よい。
昔は窓から見つめているだけだった景色が、今は目の前にある。今はその景色に 手が届く。


けれども、暖かい陽の光も、爽やかにそよぐ風も…
あの子を失ってまで、欲しかったものじゃない。

頭上には、たっぷりと陽を浴びて生い茂った木々の枝。
ふと 手を伸ばし、一枚 葉を千切る。ほどなく、青い臭いが鼻に飛び込む。

千切った葉から手を離す。ひらひらと舞いながら地面に落ちてゆくそれを、ただぼうっと見つめる。