「ハァ……ハァッ……！」


「―――ぇほっ、……っ　は、ハっ……」


その日、私は全力疾走したかのように息を荒らげて木に寄りかかっていた。


「〜〜〜っぐ、　ひゅッ……ふ、う"う……！」


迫り上がる胃液を飲んで、どさりと腰を落とす。
完全に、ビックリするぐらいのミスだった。

戦力を見誤っての失敗は何度目か。

その中でも、極めつけといってもいいほどのミスだった。


夕闇に紛れ、全身を鎧で身を包んだ状態での奇襲。
気紛れに一揆衆に行うものとは違う、『確実に狩る』という意識の元の”必殺”の先制だったのだが―――


「は、あ――――――　まさ、か……待ち伏せとは恐れいったわ……。」


同業……ではなく。元より、あの年若い商人は”囮”だったのかもしれない。
こちらの刀身が後数瞬で、というところで横っ腹に奇襲を返された。
ブラウニー
家妖精の治癒魔法で事なきを得たが、もう少し踏み込んでいたら
―――もう少し踏み込まれていたら、致命傷に近い傷を受けてもおかしくなかった。

一揆の、あまり強く燃えからぬといえど戦火の中で駆けまわる商人を喰らうように力を奮い、金目の物を奪ってきたが、それも徐々に厳しくなってきた。

時折向かう王城の様子を窺えば、徐々に刃は王の喉元に近づいているという。


「どちらが先になるかしらね……。」


黄金郷の成立か、はたまた新王権の樹立か、それとも―――





「……何にせよ……」




無造作に起き上がり、再び全身を紫の装甲で固めていく。
その手には暗闇の中で、なお薄く銀光を放つ双手の奇斧が握られる。



「今は此処を何とかしないと、ね。」



ザリ、という音が小さくなったと同時。
リレッタが、闇から飛び出た刺客の刃が重なり耳障りな音をたてる。



















やがて、数度の金属音と水が跳ねるような音。
土嚢を落としたような音がして、それきり、森は静寂を取り戻した―――――

想定外の遠距離攻撃に、対応が完全に遅れてしまう。

初撃を剣で受けるも、その衝撃に大きく吹き飛ばされてしまった。

追撃する8つの斬撃…体勢を立て直し、回避を試みた。

ドロワとリーゼロッテのことを指しているらしい。

一旦匙を起き、水を含む。

苦笑いを浮かべると、再び 食べ始めた。

薄っすらと血の付いた得物を振り払う……。

　　　　　　──人もをし　人も恨めし
　　　　　　　　　　　あぢき　　　なく
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　世を思ふ故に
　　　　　　　　もの　　　　　　思ふ身　　　は───