小さな屋敷の奥に住まう――果たして本当に、『生活』しているのかは不明だが――少女の言いように、魔女は少々気分を害したようだった。こちらが侵入者である事を責められただけならば、いつもの笑みを崩しはしなかっただろうが。
　実の所、魔女のことをよくわかっているわけでもないが、欲するところと線引きが明確な為、察する位は出来る気がする。
　強い光の力が収束する気配と同じく、水の元素がその場に染み渡ろうとする気配を感じる。これはただ気分を害しているだけでなく、『お望み通り、確りと見せてやろう』ということなのだろう。ただ怒りだけで対処出来るほど、目の前の戦乙女は容易い相手ではない。

　見定める。と姫は告げたが、それは一体なにを見ようとしているのだろうか。
　恐らく、彼女にとって必要な基準、それのみに留まるのか。
　そうであるならば、学校における試験と大差はない。ある種の儀式めいたものであるから。
　同じく槍を構え、十二の方位を強く意識する。速度を求めて、世界を渡る駿馬の元素を呼ぶ。



『――試すという行為は、自分自身を削っていくんだ』

　いつもの部屋――時間の進みすら自在な部屋で、そう言った人が居た。
　その手にした書物は、いつも違う書物のようであり、いつも何処かで見た気がする書物だった。

『どんなことも、そうだけれどね。目的と志向性は大切だ。それだけのことだ』

　とぼけるような口ぶりだったが、その少し前に、彼が何かの裁定に呼ばれたことを、自分は知っていた。
　そして、それ以上は知らなかった。だからいつも通り、茶を淹れられる程度に整えたテーブルに、カップを並べていた。
　いつもの笑みは薄く、遠くを見る目で、その人は続けた。

『試すことを繰り返した末に、「やはり」と呟く人々を、私は見た。その、心の果てを』

　――君も、いつか。



　かちゃり。という音がした。
　迷迭香の意匠を凝らした鍵が、瞬時に、記憶と今を繋いだ、その音だった。
　鍵を通じ、戦いの為の力を呼びながら、改めて戦乙女を見る。
　この試しには、明確な理由と志向性――何を見たいのかがある。自分にもそれがわかっている。すべきことはひとつ。
　繰り返されるこの試しには、『果て』はないのだろうとも、思う。
　今ではない。ただ、いつかは自分も、行く先のない問いかけを見るのかもしれない。


　一瞬のうちに過ぎてゆくだけの思考を断ったのは、氷と光の奔流だった。