けたけた

昏い廊下に少女の笑い声が響く。

けたけたけた

暗闇の中で奮戦する魔女が一人。

けたけたけたけた

魔女が亡者に向かって一閃する。
しかし攻撃は空を切る。

その度に亡者の攻撃が飛ぶ。
魔女の防護はじわじわと削られていく。

ひと際甲高い声で少女の笑い声が辺りに響く。
笑い声には嘲りが含まれていた。

けたけたけたけたけた

確かに亡者へ弱点の光撃を撃つことはセオリー通りではあったが。
魔女の置かれた状況は、余りにも分が悪かった。

あまりに動きの鈍い亡者には大技の格好の的だと魔女は高を括っていた。
けれど、攻撃する度に辺りを照らす様はむしろ魔女のほうが体のよい的であった。

暗闇の中で使う光撃は余りにも目立ちすぎていて、亡者たちからは魔女の様子が丸見えであること。
光撃を使い続ければその眩さで暗闇に目が慣れず、いつまでも相手の姿が見えないままであること。

頭に血の上った魔女はそのような単純なことにさえ見落としをしていた。


仲間と別れ、一人でいることへの焦燥か。大切な金貨を奪われたことへ憤怒か。
理由はそれだけではなく。


魔女の失敗は数多の童話に見られるように。

魔女は強欲である。
だから、呪われた金貨を独占する魔法使いのように、欲にかられ身内を遠ざけて孤独を選んだ。

魔女は怠惰である。
だから、継子の美しさに嫉妬する魔法使いのように、浅はかな行動を取った末に裏目に出た。

魔女は傲慢である。
だから、お菓子の家の暴食する魔法使いのように、狡賢い子供に油断して足元を掬われた。


悲しいかな、魔女のそうした特性は暗闇以上に魔女の目を曇らせていた。
それも自ら撒いた種。


魔女の間の抜けた姿を嘲るように少女の笑い声がまた響く。

けたけたけたけたけたけた



魔女はなすすべもなく、負けた。


倒れ伏す魔女の元に静かに兎の耳の生えた和装の少女が歩み寄る。

………
……
…


あれから数刻。
角の生えた小さな兎耳の少女と魔女がぴたりと躰をくっつけていた。
さながら恋人同士が寄り添うように。

　
兎娘は魔女のものではない名前を呼びながら、愛おしそうに魔女の頬を撫でる。

それに魔女が屈託なく答える。
心なしか口調もいつもと違うよう。

魔女は怨霊に憑かれていた。