世界間の跳躍は私たちが生まれ持つ特殊な性質だった。
気まぐれに水面へと落ちる水滴のように、無意識のうちに距離を超え、現れては消える。そこに目的や意思や規則性は無い。
だが、マスターから半実体とかりそめの自我を与えられたことでその性質は変化し、明確に場所を定めて世界間を行き来するという力に生まれ変わった。
そしてそれと引き換えに、たゆたうような無制限の跳躍を行うことは不可能になった。

私たちが六人組で世界の調査に当たるのは、作業を効率化するためだけではない。跳躍時に消耗するエネルギーを分割することこそが主たる理由だった。
最初期には一個体での世界間跳躍を行っていたそうだが、半分とはいえ実体を伴う跳躍を行うにためには多大なエネルギーが必要で、目的の世界に着いてからしばらく身動きが取れなくなってしまうケースがほとんどだったらしい。
そのため、複数人を一時的に結合して跳躍することで負担を減らし、到着後速やかに調査へと移れるようにチームが組まれることとなったのだ。
私たちの予備人数を踏まえて様々なパターンの実験を行い、六人で組んだ時が最も調査に向いていると結論されてからは、よほど大規模な調査以外は六人組を作るのが基本となった。


毒の島の調査が終わり、私たちはマスターの元へ帰投することになった。
それぞれが手を繋いで輪になり、一時的に存在を結合する。
輪の中心から徐々に景色が歪み始め、視界は色を失い、跳躍が始まる――

「こうして繋がってみてようやく、お前の抱いていたものが何だったのか理解できたよ」

隣でリーダーが小さく呟いたような気がした瞬間、私の視界は暗転した。
気が付くと、私は一人、毒の島に取り残されていた。
跳躍事故という言葉が頭をよぎった。
六人組が定着するより前、ペアやトライアングルでの跳躍事故が頻繁に起きていたという。事故に遭った者は例外なく、命を落とすか、行方不明になったと聞いていた。
私の頭の中はひどく冷静だった。自己スキャンを行うと、言語系の中枢に不可逆なダメージがあるようだったが、幸い体の損傷自体は軽微だった。
しかし、与えられた半実体とは別の部分、すなわち私の本体たる精神体に大きな傷が見つかった。底に穴があいた水瓶のように、エネルギーがどんどん流れ出ていく。
私は死を覚悟した。悲しくはなかった。ただ、無念の想いだけが、私の体を這いずらせた。

そして、私は彼女と出会った。彼女の目は、見えない筈の私の姿を確かに見ていた。