「源頼光殿に召し抱えられたそうだな」

　お館様が盃に酒を注ぎながら話を切り出す

「はい、天下の朱天童子に剣の手ほどきを受けた……というのはそりゃあ大層な経歴として扱われましたよ」

　お館様がううむと唸る

「お前は是非わしが召し抱えたかったのだが……いやはや残念」

「そのお言葉は勿体なく思いますが、元々源氏に連なる家ですからね。収まるところに収まったといったところでしょう」

「ううむ……いや、すまなんだ。元服の祝い……この大江でも盛大に祝わせて貰おうと思う。屋敷はお前が出て行ったそのままにしてあるから、用意が整うまでそちらでゆっくりとしていてくれ」

　お館様…酒呑童子に向かって一礼すると、ツナちゃんは朱天童子に頭を下げ、その場を後にした。


　さて、お館様……こと、朱天童子について話しておこうと思う。


　今を遡る事10年ほど前にぶらりと大江山にやってきて、ものの数年でその名を京の都に鳴り響く程に高めた男。

　あだ名の由来は都でもこれほど立派なものはそうは無いだろうと思わせる、朱塗りの立派な大柱の御殿に住んでいる事から、そう呼ばれるようになったらしい。
　じゃあ、この御殿が立つ前には何と呼ばれていたのかと言われれば、身内からは「王」と呼ばれ、では、京の都では何と呼ばれていたのかと言われれば、こんな都から離れた山奥の王なんて、その頃は人のうわさ話にのぼる事は無かった。

　ものの数年で大江の山を豊かにし、朱塗りの柱の大御殿を建てた頃からお館様の名声はうなぎ上りに上がっていって、ツナちゃんがお館様の元へ修行に出されたのはちょうどその頃だった。

　ツナちゃんが修行に来た頃には、山に棲み、渡来人達を束ねてのし上がった事から、大枝山の鬼の王・朱天童子なんていう風に都じゃ呼ばれだしてたみたい。
　都の人達にとっては、山に棲むなんて事自体蛮人のする事だし、加えてドワーフやエルフ達渡来人を達なんて、鬼の一種にしか見えなかったんだろう。

　ツナちゃんに言わせれば、頼光四天王の坂田の金時……キンタローの方がよほど赤鬼みたいな姿をしていると思うんだけど、とりあえず京の都での評判はそんな感じだった。



　さて、ツナちゃんの元服祝いという事で大江山で催された酒宴。

　一応ツナちゃんが主役って事になるけど、そんな事はお構いなし……皆お館様の話に夢中だ。

「いや、鍛冶頭の酒の強い事と言ったら無いな。八岐大蛇の奴でもこうは飲まなかったぞ」

　鍛冶頭……らいちの父親だね……と飲み比べをしていたお館様が床に大の字になって笑い、その場の皆がまたそれを見て楽しそうに笑う。

　男ならばこの男に憧れぬものなどいまい、女ならばこの男に惚れぬ者などいまい……お館様はそんな英雄だった。

と、らいちがカエルプリンスをつまみあげる

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木で作られた台に乗って、踊りながら歌っている女の子がいる
１曲歌い終わると、ちらほらいる観客に向かって話しかけ始めた