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ブルート夫妻の前を行くディアは、踊り出さんばかりにご機嫌だった。
時折、気味悪……否、楽しそうな笑みを洩らしながらハートを撒き散らしている。

「かわいいコがたーっくさんいてシ・ア・ワ・セ！や〜んもうどうしようかしらぁ〜っ！」

……先ほど、夫妻が世話になった者達への“お礼参り”をしてからというもの、
ディアはずっとこの調子だった。
それもそのはずである。夫妻が知り合っていた者達には可愛らしい女性が何人もいたのだ。

ディアはこのような一見して女にしか見えない、たとえ口を開いたとしても
せいぜい“オネェ”としか思われない容貌をしているがその実、大の女好きなのだ。
曰く“守備範囲は人の姿をした全ての女性”と自負しているディアは、
その言葉どおり女性とあらば誰彼かまわず声を掛け、手を出そうとするのである。

「……どうして彼女はあれほど女性を愛しているのに、女の格好をするのだろう？」
「可愛いものが大好きだから、と前に仰っていたけれど……」

ブルートの疑問には、残念ながら彼の妻もはっきりとした答えが分からないらしい。

確かにディアは“かわいいモノ”を非常に好んでいるのだが、何故だろうか。
何か“それ以外の重大な理由”を孕んでいるような気がしてならないのである。
実際、ディアが初対面の女性に声を掛けても、警戒されないことが多いのだ。
その裏には……知らないほうが良い何かが、あるに違いなかった。

「というか……彼女には意中のひとがいたような」
「あらァ、アンタよく覚えてたじゃなぁい！ そうよォーマイエ・ン・ジェ・ルッ！
あのコには何かイイお土産を探してあげなくっちゃだわぁっ!!」

一際大きなハートを飛ばして、ディアが後ろの２人へと振り返った。
その顔は先ほどまでのご機嫌具合が比にならないほど満面の笑みを浮かべている。
……そう、ディアには本命の“マイエンジェル”がいるのである。

そんなディアの姿に、クリスが首をコトリと傾げて見せる。お馴染みの大げさポーズ付きだ。

「そこまで“彼女”を愛しているのに、他の女性にまで手を出すとは不順では無いかい？
……まあ、僕程の男になると女性のほうが黙っていないのだけれどね……!!」

補足しておくが、クリスは少なくとも廃墟マンションに来て以降、
女性に声を掛けられたり囲まれていたりという所は、誰一人として目撃していない。

「脳ミソぶちまけちまったような奴は黙っ・て・ろ。
……あぁんそれより何がいいかしらぁっ！」

綺麗な顔から飛び出すとは思えない台詞を、同じくその顔が発するとは思えない
重低音ボイスでクリスにぶつけると、ディアはくるりと元の笑顔と声色に戻った。
なにやらNGワードをぶつけられたらしいクリスは、大仰に頭を抱えると
地面にへたり込んでしまった。懲りない男である。

……ディアにとっては、例え本命がいても女性との交流は必須事項らしい。


「あのコったら意外と強情で大変なのよねェ〜。
……ベッドの中じゃあ〜んなに素直でカワイイっつーのに」


「君は今日も世界一美しいね……僕は幸せ者だ」
「あら貴方ったら……ふふ、貴方もすてきよ」

ディアがぼそりと呟いた声を、夫妻は聞かなかったことにしたらしい。
懸命な判断である。

「さ〜ってアンタ達、張り切って行くわよぉ〜っ！」




◆◆◆


その頃。
“廃墟マンション”ではとある女性のクシャミが盛大に響き渡っていた。


「……ヤだわ。またアイツが何か妙なことしてんじゃないでしょうね」

悪寒でも走ったのか彼女は腕をさすりながら、そそくさと自室に引き篭もったのであった。







　
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揺れた茂みに警戒を漂わせ、鎌の柄に手を伸ばした所で姿を見てきょとんとした。

まだ近い記憶を思い出し声を掛けようとした矢先の登場に
頭が真っ白になって暫し硬直。

混乱する頭を宥めつつ、

目前での職人芸に驚きを隠さず、コサージュを受け取ると
襟元に寄せたり髪に当ててみたりした。