「‥‥！！」

痛みは、感じない。
それでも全身を貫いた衝撃と、空を掻く脚。

微かな"気配"を追いかけている内に、激突してしまったのだろう。
今は、見落としていたのを嘲笑うくらいに土の気配。
‥切り立った崖、かな。
――口の中に土が入ってしまった。

けれど、それよりも。それよりも！
吐き出す暇も惜しんで、再び神経を尖らせた。

先ほどまで、それほど遠くではない距離にいた筈の気配。
‥ない。
聞こえるはずのなくなった耳を澄ませる。
拾えるはずのない器官にまで意識を傾けてしまう。
けれどそれはただ、ぼくらへと周辺の様子を少し仔細に伝えるに留まった。
何よりも拾い上げたいそれはもう‥、行方が知れない。


（フョードル‥）

口は息は、此れまで不自由したことがないように言葉を紡ぐ。
けれど呟けたかどうかは、耳によって理解を阻まれる。

会いたい。

――けれど会って、どうするんだろう。

その姿を見る事が出来ない。
声を聴くことも出来ない。
爪で、翼で尾で戯れることも会話を交わすことも、今はもう、出来ない事だ。

出会えたとしても、フョードルにとってはもう、ぼくはただ居るだけの置物、或いは、手がかかるだけそれ以下のものだ。
尽いていた侭の方が、きっと立ち直れるのは早い気がする。

‥‥それでも、会いたい気持ちを抑えられない。

会いたかった。
身勝手だな、と笑う。

会いたかった。
会えなかった。

尽くせる限りを尽くして縁が得られないのなら。
会うべき時では、ないのかもしれない。
それが今だけなのか、それとも此れからもなのかは判らないけれど。

ぼくらが感じられる気配というものは、そういうものだから。

微かに、囁くような声。けれど、酷く掠れたそれはとても言葉足りえず、くぐもった響きだけを残して消えた。

深く一礼した……。