■ 蜘蛛の糸

お城の中の広い庭のさらに奥、小高い山の上にぽつんと建つ離れのようなお屋敷。
その中は薄暗い上に廊下が入り組んでいて、まるで迷路のようになっている。
そんな廊下をふらふらと眺めてみると何やら奇妙なものが見える。

それは、廊下の手前から奥までぴんと張られた一本の糸だ。
誰かの悪戯のようにも見えるのだが、どうもおかしいところがある。

廊下の奥、糸の先が何処かに繋がっているのかと見てみたら、
なんとその糸の先っぽは、蛇のようにひとりでに空中を動いているのだ。

さて、この謎の糸の正体を探るために今度は根元のほうを辿ってみよう。
廊下を進んで角を曲がり、突き当たりの怪しげな部屋を横切ってまた廊下に出る。
そうやっていくつかの廊下と部屋を辿った先にいたのは、矢っ張り我らがマニー親分だ。


この糸の謎を知るために、もう少し時間を戻そう。
親分たち一行は、薄暗い屋敷の中をもう長い時間歩き回っていた。
いくら離れとは言えかなり広い上に、廊下も部屋の中もごちゃごちゃと迷路のよう、
そこにまたお城の化け物たちが襲ってくるとあっちゃそうそう先へは進めない。

「これじゃ埒があかねえな」と痺れを切らした親分。
「せめて真っ直ぐに奥まで進めればいいんだが」と辺りを見回す。
と、その後ろに歩いていた小さい影が、急にぴょん、と飛び跳ねた。

「親分さん、そういうことなら早く言っておくれよ」
と言ったのは新しい手下で糸人形のえんぶりお、イトキチだ。
「おいらの糸ならうってつけさ」と糸で出来た腕をぶんぶんと振った。
そのまま両腕を上に持ち上げると、なんと腕の先の糸がほつれて動き出したのだ。
「さあさ、お立ち会い、この糸たちが道案内をして進ぜましょう」


こうしてイトキチの手からほつれた糸は幾重にも解れ、廊下の先へと進んでいった。
イトキチはそれらの糸が触ったものの感触がわかるという。
それを利用して一度にいろいろな道を調べて奥へと続く道を探そうって寸法だ。

「あんまり遠いとおいらが全部ほどけちゃうけれどね」とイトキチ。
「この次は目の前で糸の舞い踊りを見せてあげるよ」と糸を動かしながらもよく喋る。
「便利なのはいいが、油断して捕まるなよ」親分はちょっと心配そう。

と、それが当たったのか、「あ痛」とイトキチが飛び上がった。
しばらくして伸ばしていた糸も戻ってきてまたイトキチの腕の形に編み上がる。
「見つけたよ、親分さん」と、痛がりながらも確りと親分を見据える。
ぐっと突き出した腕の先をよく見ると、一本だけ糸が短くなっているようだ。


「人が二、三人。そのうちひとりが急においらの指を切っちゃったんだ」
しばらく後、親分たち一行は屋敷の奥へと進んで一際大きな扉の前にいた。
先程イトキチの糸がこの部屋の鍵穴から入っていったが見つかって切られたらしい。

「ご苦労だったな、後で切られたところを結んでやるぜ」と親分。
「だがまずはこの奥の連中だ。さて鬼が出るか蛇が出るか、油断するなよ」
重厚な扉をぐっと押すと案外すんなりと開いていった。

クィンは欠伸をしている…