「くろーん？くろーんってなんです？」

　簡単にいえば複製品のことだ。この建物のそこかしこに放置されている書類に目を通すと、どうやらエンブリオのクローンを生み出すことを目的の研究を行っているようである。

【つまり、エンブリオの複製。同質の存在を作り出そうとしているわけだな。】

「まんださんは詳しいですね。コルリには何のことかさっぱりですよ。」

　しかし何のためにそのような研究を行っているのか、それが問題であった。今のところ、その結果何をしようとしているのかを示すものは見当たらない。

「じゃあまんださんもそのくろーんってのにすることができるんですか？」

【クローンを生み出すには、対象の情報が必要だから、もはや肉体の無い私のことを複製するのは不可能だ。】

「ということは、くろーんっていうのには元になったエンブリオがいるってことなんですね」

　そう言うことになる。一体何を複製しようとしているのか。そのような行為が本当にできるのかは定かではないが、何にせよこの研究を発案したものは大層大それた痴れ者なのだろうということは見当がついた。



　そして今、その痴れ者が目を細め口角を上げ笑う。

　エンブリオを摸したそれが呼応するように咆哮を上げる。

　知性のひとつも感じられない、これが我らの複製というか。


【……砕き散らせ、あんなものの存在を許すな。】

冗談ですよ、と小さく笑う。