薄暗い、血の臭いと得体の知れない臭気に包まれた場所だった。

今はもう使われていないであろう地下牢。

そこには入り込んだものを戯れに蹂躙する魑魅魍魎がいるだけだった。

「愉しい時間にしましょう？」

下半身がヤギのような、蛇の髪を持った妖艶な女が、誘惑するようにそういった。

「私に毒されてくれると聞いてっ！！」

下半身が蛇の女が、まるで久しぶりに会う恋人を前にしたような声と顔で、そういった。


-悪戯に生ける者を弄び、殺し、愉しむ、堕落した魔物共め。-

-『女』として生を享けながら、子も育まず、恵まれたその躯を猥らな誘惑にしか用いない-

-汚らわしい-

-『女』としてまともに生まれた癖に-


私は剣を抜いた。　迷いは微塵もなかった。
しかし、いつものような戦いの心境ではなかった。
黒い、どす黒い何かに取り付かれたような
退けるため、守るための戦いではなく
「殺す」ために剣を振るっていたと思う。

人を惑わし蹂躙する魔物だ。そうであって間違いではないはずだ。
しかし、戦い終わった今も、何かが私の胸をじわじわと、燻し続けている。
未だ嘗てないほどに胸が悪い。
浮かんでくるのは、先ほど切り捨てた淫売共の豊かな体　身体　肢。
今まで出会った女たちの　体　身体　肢。

違う。そんなものとはとっくに決別したはずなのだ。
決別した上で騎士となったはずなのだ。
この身を捨てて、女子供を、弱きものを守る者になると決めたはずだ。


最高に、胸が悪い。
さっきまで共に戦っていた仲間の肢でさえ、今は目に入れたくない。

先を急ごう。次は水辺のはず。
清らかな空気と水が、私の心中を癒してくれるはずだ。

誰にも向けられないこんな気持ちを、一刻も早く洗い流してしまいたい。

パーティーの二人をできるだけ視界に入れないように
その恵まれた身体を見せ付けられないように
できるだけ先頭を、早足で歩いた。

ふとオリビンの右目　眼帯の下がぼんやりと緑に輝くと
何もない中空　オリビンの眼前に掌大の輝石が浮かび上がる。

その名をそれを跳躍と共にカタナで叩き斬ると、砕けた欠片が粒子にほどけていき
渦を巻いて徐々に形を成していく。
淡い緑の光の中からお腹に子供を宿した聖母にも見える天使が現れた。