地を埋め尽くすほどの人ならざる者たちが、煙る砂塵の中を往く。
苛烈、その多くは死して帰らないことを知っている。
手を持つ者は剣や斧や槍を手に、纏える者は鎧を取り付ける。
そのいずれもを受け付けぬ兵士は、己の爪、牙、角、あるいはその尾を武器に、
強靱な毛皮や鱗を、甲羅を防具に、なんにせよ遍く武装された者として、死地へ。

繰り返される死の衝突。もはや我々にとって、それは季節の移り変わりの如く繰り返されていました。

私だけが、その循環から取り除かれ、ここに立っています。
目に映る中に、『兵士』は一人もいません。
優雅に着飾った、人間ばかりが、『人間』ばかりがここにいます。

ただ一人私だけが、角を持ち尾を持ち、鋭い歯牙、横長の瞳孔で物を見て、
その癖、鎧もマントも与えられることなく、その身を飾るのは、『人間』の従者の衣装。

慣れ親しんだものは、何もありません。

血も衝動も、刃と刃の立てる音、筋肉がその骨を存分に牽引あるいは持ち上げて、憎しみもなく衝突する。
爆薬が燃え爆ぜることを宿命とし、その瞬間のカタルシスを待ち望むように、
手に掴んだ斧が肉を裂き、臓腑を断つことを期待する。
無数に交叉する視線は、降り注ぐ刃の軌跡と、貫くべき標的を、その隙を探している。
姿形は異形、お互いに分け隔て無く混沌で、魂、思想は同じ色を呈し、
ただそこにある違いは集う旗印の色のみ。

戦場、戦火。
それが日常でした。物心ついた頃から、私は、そればかりを繰り返していたのです。

けれど、その全ては遠ざけられてしまいました。

戦争は遠ざけれて、『人間』の衣装を着せられて、ただ従者として振る舞うことを強いられています。

この世界には、『兵士』と『人間』がいました。
『兵士』と呼ばれる存在は、様々な生物が入り交じり、一つの生物を成していました。
『兵士』は『人間』の命令に従い、同じ『兵士』と戦うのが、その使命でした。
この世界には二人の王がいて、戦争しているのだと。
そのことをちゃんと知って理解したのは、初めて戦場に降り立って敵を討ったときから、どれほど経ったことでしょうか。

一方で、『兵士』が『人間』に従わなければいけないのはおかしい、
同じ『兵士』同士で殺し合う必要などないはずだと、そうした動きもありました。
実際に決起した『兵士』が、『人間』に反逆し、武器を向けるという事件も幾度となくありましたが、
『人間』に従順な『兵士』が必ず妨害に入り、また『人間』には魔法と呼ばれる術があったことから、
そうした武力衝突が、実際に『人間』を殺すに至ることは、稀だったと聞きます。

けれど、少なくない頻度で起きる反逆は、戦争において大きな妨げであったと、アナは言います。
その抑止のために、『兵士』である私が、『人間』の下で、こうして働くことになったのだと言います。
初めは戸惑いましたが、そうすることで、『人間』は『兵士』を蔑ろにはしていないのだと、
それを示すのだとアナは言います。
そして私がそれを上手くやれば、もっと良い生活を送ることのできる『兵士』は増えるのだと。

何故、それに私が選ばれたか？
それは、簡単な話です。

それは、


貴族然とした、正装に着飾った男性が、私の頬に触れます。

私が牙を剥きだして見せると、男は微笑みます。
その眼差しは何故か私の胸を締め付け、私は、そっと目を逸らしました。

それは、私がたまたま、『人間』に似ていたからです。

身を寄せてくる彼女をぎゅうと抱きしめる。
胸に顔が埋まるだろうか。

夢愛は話しながらもまだフィリーの髪の匂いを嗅いだり、肌をついばむように口づけたりしている。