「忘れないで」





そういって、『あの人』は笑った。





「キミは一人じゃないから」

「どれだけ遠くまで行ってしまっても、長い時が過ぎ去ったとしても」

「私はちゃんと、キミと一緒」




金の瞳が微笑んでいた。
大丈夫、と言葉にされていない声が聞こえた気がした。

そっと手を取られる。
握らされたのは、綺麗な碧玉。





「それはお守り」

「キミの進む道はとてもとても険しいから、その助けになるように」





本当なら私も一緒に行きたかったなぁ、と。
寂しそうに。
悲しそうに。
言う声音は、多分本気だったんだと、今なら判る。




「キミが、進むべき道に迷った時に」

「キミだけでは超えられない壁に、ぶつかってしまった時に」

「……キミを助けるべき者が、キミを助けられない時に」

「そんな時に、これを使って」





告げる顔を、ただただ、見上げた。
何だかそうしなくちゃいけない気がしたのだ。
自分の記憶に、記録に、しっかりと刻みつけないといけないような……そんな気が。









「名前を呼んでね」



「『私』の、名前を」










それは、旅に出るほんの数刻前。
今から数えて十年以上も前の事だった。



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