あるていどすすんだところで、そのひのグリーンパレスたんけんはおひらきとなりました。
ここからさきはみんなそれぞれのみちにすすむようです。

猫もこれからさきはまたひとりとなります。


でも、いまの猫のこころにひっかかるものがありました。
それは、セリィおねえさんのこと。

いつもやさしいセリィおねえさん。
わかれぎわにおかしをくれたセリィおねえさんはいつもどおりにみえました。



でも、ほんとうにそうだったのでしょうか？
あんなつらそうなおねえさんのかおはみたことがありませんでした。


猫といっしょにいるとふこうになるかもしれない。
おねえさんがすきだから、おねえさんともわかれるのは猫にとってはあたりまえのことのはず。



――でも、それでも。
ほんとうに、おねえさんをあのままひとりでいかせてよかったのでしょうか――？


それに。
どうしてもあのときのセリィおねえさんのかおをおもいだすたびに、猫のこころがゆらぎます。
だれかをふこうにしないため、みんなのもとをはなれることにした猫。
こうかいはあるし、さみしさにおしつぶされそうだけれども、それでも猫がえらんだこたえ。


そのこたえは――はたしてただしいことだったのかと。









いちどはかくごしたはずだったのに、
いまになってなやんでもなやんでも、猫にはわかりませんでした。


でも、ひとつだけたしかなのは、いまさらみんなのもとへはもどれないということ。
なぜなら、ししょーたちをつきはなしたのは猫じしんなのですから。




だから、いまの猫にできることはただすすむことだけ。
そうかんがえて、さきへすすむ猫でしたがーー












『………なんでついてくるのです？』




猫のうしろには、なぜかさきほどたたかったダイアーウルフとよばれるおおかみのすがた。
そのうちのいちばんちいさないっぴきがついてきていました。


おおかみはきょとんとしたようなかおをしながら、


「あれれ、もしかしてついてきちゃだめだった？？」


と猫にたずねかえします。
猫がこたえあぐねていると、かまわずにっこりとわらって、


「ねぇねぇ、ぼくとケイヤクしようよっ！！」


とキラキラしためで猫をみつめてきました。








こまったのは猫のほうです。


『……なんで小生となのです？つよいひとはほかにもいたのです。』


さきのたたかいでは、猫よりもつよいセセリおにいさんや、ヴィンセントおじさん、それにセリィおねえさんだっていたはずです。
それが、よりにもよって猫にけいやくをもちかけるなんて、猫はふしぎでなりません。




「ほかのひとたちはねぇ、ケイヤクはひつようないんだってみんながいってたよっ！！」


なるほど、すでにおにいさんたちにはことわられたようです。
みんなというのはきっとほかのダイアーウルフのことでしょう。
のこった猫のところへしかたなくケイヤクをもちかけにきたのにちがいありません。

そうおもっていたからでしょうか、つぎのおおかみのことばにはみみをうたがいました。


「でもぼくがいちばんケイヤクしてみたいのはキミなんだけどねっ！！」





『……なんで、小生と、なのです？』


わけがわからなくて、もういちどたずねる猫。
おおかみがニコニコわらいながら


「んっとねぇ、いちばんちっちゃかったからっ！！」


とむじゃきにこたえました。
わるびれもせずにちっちゃいといわれ、猫はカチンときました。


『小生をばかにしてるのです！？
それなら小生もいらないのです！あっちへいくのです！！』


と、てをふっておいはらうようなしぐさをしました。
それをみたおおかみ。


「だめ？？だめなの？？そっかぁーザンネンっ！！またまただめだめだぁー！！」


あいかわらずえがおのままで、とてもざんねんそうにはみえませんが。


「でも、バカにしてるわけじゃないよ？？」


『？』


「ぼくってさ、ほかのみんなよりちょこっとだけちっちゃいんだよねぇっ！！
ちからだって、くやしいけどみんなにはかてない。
だからかなぁ？いっつもぼくだけケイヤクしてもらえないんだ。」


あいかわらずにこにことしているおおかみ。
でも、なぜでしょうか。
そのめはすこしさみしそうにみえます。


「でも、キミはちっちゃいのにそれだけつよいんだもの。
キミとケイヤクしたら、ぼくもちっちゃくてもつよくなれるかなぁって、そうおもったんだ。


…けっきょく、ことわられちゃったけれどねっ！！」



あはは、とわらうおおかみ。

そのすがたをみていると、セリィおねえさんのことがあたまをよぎりました。

つらそうだったセリィおねえさんをひとりにしてしまったつみほろぼし、というわけではないのだけれども。

なんだかさびしそうなわらいが、ほうっておけなくて。



せをむけてさっていこうとするおおかみをひきとめて、むすっとしながらかおをそむけて猫はてばやくもじをかきました。


『けいやく、してあげてもいいのです。』


それをみたおおかみ。はじめはきょとんとしていましたが、まじまじともじと猫のかおをこうごにみつめると、



「いいの？？ほんとに？？ほんとのほんと？？
ぼく、いらないこじゃない？？
やくに・・・・・たてる？？


やったぁ！！ありがとうっ！！」


しっぽがはちきれんばかりにふられ、からだじゅうでよろこびのきもちがあふれているようです。
そのすなおなようすは、猫にとってすこしばかりまぶしいものでした。






ネクターのはなびらをとりだしてけいやくするさなか、はじめにいいだしたのはおおかみでした。


「キミはロクっていうの？？」


『そうなのです。』


「ふぅん、かわったなまえだねっ！！でもいいとおもうよっ！！」


『そうなのです？そういうおおかみくんのなまえはなんなのです？』


「ぼく？？なまえはないよっ！！」


よかったらキミがつけてよっ！ときたいのこもったまなざしでみつめられて、猫はこまってしまいました。
あんなひとみでみつめられたら、ことわれません。

おおかみくん、はなまえではないでしょう。
さすがにちっこいの、とかはあんまりだし。

なやんで、まよって。
ようやくかいた、ちいさなもじ。


『"Stern"』


「なに？？なんてよむの？？しゅ、て、るん？？」


『どこかのことばでおほしさまをあらわすことば…だったきがするのです。…たぶん。』


おほしさまのちからをつかっていたから、というそのまんますぎるものだったけれど。


「しゅてるん・・・・・シュテルンかぁ！！
ぼくはシュテルン、よろしくね、ロクっ！！」


おおかみもまんざらでもなさそうなので、よしとすることにしました。













このさき、このおおかみ――シュテルンもふこうにするかもしれません。
それでも、こたえにたいしてわきあがってしまったこうかいとまよいはきえなくて。

ほんのすこしのあいだだけでも、ゆるされるなら。




『よろしくなのです、シュテルン』

かーこは鞄から『調属芯』と呼ばれるものを取り出し、差し出す。
（半径0.5cm、長さ15cm。7本それぞれに異なる色が使われた円柱状の物体。）
一方で、メイを手のひらの上に乗せて。
そこには『それ』と同じ、しかし、細く短いものあった。

メイは芯をくわえ、魔力を流すと黄色の芯が輝きだす。
それから、魔力を放つ。
弱く小さな魔力の塊はゆっくりと石に向かい、コツンと命中した。
芯を置いて、続ける。

おにいさんはロク＝リクくんの頭をぽふぽふと優しくなでます。

ロク＝リクくんに妙なことを吹き込むと、
こちらももそもそと魚肉ソーセージを食べ始め、
しばらくすると、魚肉ソーセージは包みだけになってしまいました。

おにいさんは、よっこいせ、と腰を上げると、
ぐっと伸びをしました。

ブルーノおにいさんは大きな手をふりふりと振ると、 その場を後にしようとします。

なんともいえないかおでルリアンナおねえさんからもらっただきまくらをみつめています。

なんとなくひとりでいるのがさみしくなって、にっこりわらうルリアンナおねえさんがプリントされただきまくらをぎゅっとだいてねころがってみました。