――ブランチマンを退け、
先へと進んだ私達は再び地下牢へと戻っていた。
――門であばれた以上、
更に此方の道からの侵入がし易いと見越して。
元より侵入する分には都合がよく、
人気が無いのだから、
別に陽動などしないでもいいとは思うのだが……
「念には念を入れてした方がいいんじゃないかな？」
という意見の元、
とりあえずやってみた。
といった所である。
が、確かに……
地下牢の上の人の気配は少し減った気がするから、
効果は何かしらあったのだろう。
だが――
「兵士と悪魔とドラゴンが現れた。
　……全く無意味だった気はするわね。」
「うん。
　正直私が悪かった。
　……けど予想出来ないじゃない。」
「確かにそれはそうだけど。
　――ま、やりましょうか。
　兵士の２人はやる気が欠けてるから、
　運が良ければ助力が得られるかもしれないしね。」
「だ、ね。
　……エモさん食べ無いようにお願いするよ？」
「おなかへった。」
「……ドラゴン！
　ドラゴン食べていいから！」
「うー。分かった。」
結局の所、
何をやっても、
闘う時は闘うし、
闘わない時は闘わない。
……けど、全ての行為が無駄なのではない以上、
するべきは悔やむよりは、
あれも必要な経験だったのだと思う事。
実際に得るものも大きい戦いではあったのだから。
「ま、何時もの事よ。
　何時も通りに行きましょう。」
「ん。そうだね。」
私の言葉に斧を構えるアルネスさん。
それに続いてエモさんとペルチェさんも戦いの体勢に入る。

――戦いは直に、とはいわないが、
余裕をもって殲滅する事に成功した。
ペルチェさんも慣れてきたのか、
相手にドラゴンがいてもひるむ事なく戦ってくれたし、
余程の事や相手でもない限りは、
このままゆるりといけば問題なく進めそうではある。
私、そして残りの２人に関していえば、
これが初めてではない為、
言わずもがな……というものである。
だが――
「おやおや、
　こんなところに客人ですか。
　先ほどの方といい……今日は多いですねぇ。」
そんな私達に男の声が掛けられた。
その声に反応してみてみると、
そこにいたのは、
紫色のマリンショートに青い瞳の男性がいた。
リヤサを着用し、
十字架の描かれたクロブークを被っている辺り、
神に仕えているといわんばかりである。
そして――
「私はラズロと言いまして、
しがない司教でございます。
噂のあなたたち敵軍を討伐せよとの命を受けておりまして……
……ここ、通せないんですよね。
　基本的に。」
にっこりと微笑みながらこちらへと告げてくる。
そして、こちらの反応をまたず、
「出番ですよ、
　可愛い可愛い生なる者たち……」
そう、彼がつぶやくと、
床から死者達が立ち上がってくる。
「貴方のため、
　お役に立ってみせますとも……」
「カルシウム、
　足りてるぅ？？」
「新しい肉をください、
　腐りかけなんです。」
スケルトンにグール。
そしてキョンシー。
中々なラインナップである。
闘いの用意をする三人を尻目に、
私はへぇ、と感心してその様子を見ていた。
そんな私を見て、
ラズロは更に微笑みかけ……
「さぁ目覚めなさい、
　第二の人生の始まりです。」
更なる死者を目覚めさせた。
どうやら私が驚いたと思ったらしい。
――はなはだ見当違いではある。
確かに強力な死者であれば、
私を退ける事は可能だろう。
だが……
本質的に不死者では私に勝つ事は出来ない。
私は、不死者にとって致命的に相性が悪く、
私にとって、不死者は致命的に相性が悪いからだ。
指を向ける。
それだけで私に集まる亡霊は暴威を振るい、
不死者達を飲みこみ砕いていく。
「あぁ……嘆かわしい……」
その様子にラズロも気付いたのだろう。
諦めたような顔で死者が地に戻るのを眺めていた。
「や、やだッ！
　眠りたくない……眠りたくない……ッ！！」
それでも抗い続けたキョンシーですらも、
相手は私だけではない、
エモさんとペルチェさんの連携魔法の手により崩れ落ちていた。
その様子を見てラズロは諦めたかの如く、
笑顔を浮かべ――
「おやおやお強い……
　どうやら強豪揃いのようで……退きますかね。
　そちらの御嬢さんとは致命的に相性が悪いですし、
　それに――」
チラリと私の方を向いて首を振り、
「……ここでは王の力の伝達が足りていないようですし。」
そう呟いて静かに地下牢の奥へと消えていく。
負け惜しみとも取れるが、
どうやら、
本気で言っているらしいのは伺えた。
恐らくは本当の事なのだろう。
だとすれば……
王に近づけば近づくほど、
相手の力は強くなるという事になる。
ならば、
今の状況は絶対の自信の表れか、
今だ時が満ちないだけなのか。
謎はさらに深まりゆく。
一体王は何を求め、
何をしようとしているのか。
――その結果何が起きるのか。
考えても答えは出ない。
近くにあった階段から差し込む光が、
新しい道筋を指し示す。
――考えても仕方がないかと首を振って先に進もうとした所……
「眠りたくない……」
そんな小さな声が聞こえた。
そちらの方に目をやるとキョンシーが必死に立ち上がろうと今だ悶えていた。
少し考え……
「なら、一緒にくるかしら？
　……私の傍なら眠らずに済むわよ。
　あのラズロとかいうのを裏切る事にはなると思うけど。」
手を差し伸べる事にした。
力になってくれるなら、
力になってもらうにこした事はなく、
彼女の力であれば、
十二分だったから。
少し躊躇したようだが、
私へと手を伸ばしたので、
私も手を取る。
――長い付き合いになりそうね。
そう静かに笑い、
先へと進む。
最後の時が訪れても、
きっと魂だけは私の傍にあるのだろうと、
その事が少し嬉しくて――

「――やれやれ、行きましたか。」
侵入者達が去ったのを見届け、
一つ息を吐く。
「……キョンシーが抜けたのは痛い所ですが……
　王の伝達の力が強い所で新たに作るとしましょうか。
　其の為にも相応の場所へと行かねばなりませんが……」
奥へと偵察へ出していたものの報告を受けて、
考えを巡らせる。
相当に危険な存在が奥にはいるのが分かり、
このまま奥で待ち構えるのが困難な状況。
流石にこのまま用意もなく力の強い存在の所へいくのは自殺行為。
次の一手を考えなければならないのだが、
中々悩ましい。
「――ゆっくり考えましょうか。」
だが、時間はまだある。
敵軍を討伐せよとの命は確かに受けたが、
別に此処で仕留めろと言われて無い以上、
相応の場所で迎え撃つべきだろう。
力の伝達は足りなかったとはいえ、
ああもあっさりと倒されると思わなかったし、
あの黒髪の女は自分の天敵である事は確かであるのだから。
……少なくとも不死者を使って倒し切るのは不可能だろう、とは理解できる。
故に彼女に対する対策も考えなければならない。
王の絶対なる力と、
集められたネクター……
あの力があれば、
誰も太刀打ちできない。
そして、
それは王に近ければ近い程、
王に認められれば認められるほど強い力を与えてくれる。
何れはこの世界に王の力が満ちる。
そうすれば……
いや、そんな事はどうでもいい。
大切なのは、私がその力の恩恵を受けれるという事である。
ともあれ、今は場所を移すべきだろう。
「――次は、負けませんよ。」
――あの者達を次こそは打ち倒すために。

(以下。時間軸をずらして現在付近での出来事。)

「あら？
　……エモさんはどこにいったのかしら？」
いつもであれば、
お腹を空かせて私にご飯を集りに来るエモさんの姿が見えない。
疑問に思ってペルチェさんやアルネスさんに話を聞いてみたが……
「え？
　知らないウサ。
　どこにいっちゃったウサ？」
「えええええ、
　ご飯時にも現れないって珍しい……
　どこいったんだろ。
　聞いてないけど。」
との事で心当たりはないらしい。
――それを聞いて心当たりが私に……
一つだけあった。
元より、エモさんは召喚されやすい性質がある。
それ故、色んな世界を渡り歩く事になっているのだが、
今回もまた召喚に巻き込まれた可能性がある。
だとすると、
このまま戻ってこれなくなる可能性がある訳で……
新しい仲間を探すか募るかしないといけない。
折角集まり、
楽しく旅をしてきた仲間なので、
このままずっと行きたいとは思っていても、
流石に戻ってこないのあれば、
どうしょうもない。
やれやれ――
と思って居た所、エモさんがご飯をせびりにやってきた。
どこか行ってたのねと思っていたのだが、
それが何度も続くと、
流石に疑問は残る。
召喚されて、
時間がくればこの世界に戻って来る。
それを繰り返しているのではないか、
と。
あっているのか外れているのかは分からない。
本人に聞けばとも思うが、
エモさん相手に此方の期待した応えがかえってくるかと言われれば、
微妙なラインである。
実際問題ない気もするのだが、
明瞭を得ない答えになる事も多々あるからである。
それならば、
自分で調査して納得するしかない。
そんな中、一つの噂を耳にする事になった。
本の中の世界へといける本があるらしい。
その世界では数多の停滞した物語があり、
中に入った者達は、
その止まった本を読み進めて物語を紡ぐのだとか。
根も葉もない噂、
普通であれば、都市伝説として一蹴して、
信じずに埋もれていくだろう。
だが……
私もこの世界も普通ではない。
少なくとも、私の世界の普通の基準からすれば。
ならば、それが指し示す所は……
真実であるともいえる。
それに、そんな本があるのであれば、
その本の召喚の力にエモさんが反応して、
一緒に本の中へと吸い込まれる可能性はあり得る。
ほっといてもいいのだが……
エモさんの事を考えると、
いち早く本の世界にいった方が良い気がしてくる。
というのも、彼女を一人でほっておくと、
なんでもかんでも食べてしまって、
食べてはいけないものを食べてしまう可能性が高いから。
完全に私が彼女の保護者になっている気がするが……
正直な話、私一人いるだけで彼女の食生活が安定する為、
そうならざるをえないのである。
迷惑をかけてなければいいと思うし、
余程の事が無い限り迷惑はかけてないと思うが、
それも向こうの世界に食糧があればの話。
もしも食糧がそれほどない世界だったとすれば――
「……大惨事確定ね。」
人でなれなんであれ、
全て食いつくすまで止まらない気はする。
もし止められたとしたら、
エモさんを失う訳で。
「恐ろしい二者択一が冗談と言い切れないのが怖いわね。
　……これは私が迎えに行く方が良いかしら。
　其の為には本を手に入れて、
　世界を渡る必要があるのだけど……
　そんな本はどうやって手に入れたものかしらね。
　……暇な時に本がありそうな場所を手当たり次第に探しましょうか。」
色んな本を手に取り読んでいく。
興味あったり面白そうな本は確保しつつ、
流石に一人では手一杯なので、
霊の力も借りて数多の本を読み廻る。
しかし――
「読みたい本や興味ある本だけが積み重なるのはどうなのかしらね……
　元々本好きだから仕方ないのだけど……
　それどころじゃないというのに、
　全く……
　……一種の病気ね。」
苦笑しながら、
ため息を一つつく。
目的のものの手がかりも、場所もいまだ分からない。
だが……
「……？」
不意に、物陰に古ぼけた本があるのを見つけた。
どうしてこんなに近くにあったのに気付けなかったのか。
どうしてこんなにも気になるのかは分からないが……
似たような経験はある。
えてしてこういうものこそが探し求めていたものである。
――普通の本ならばありえない。
だが、普通でない本ならばよくある事だから。
そっと手に取ってタイトルを見る。
古ぼけた表紙と文字で、
良く読み取れないが、
なんとか判明する。
やはりというかなんというか、
日本語で書かれている辺り、
これは私に用意された本……といった所だろうか。
そっとページをめくると、
光が溢れ、本の中へと吸い込まれる感覚。
――どうやら、霊達は入れないらしいので、
そこで待機しておくよう命令し、
そのまま本の中へと――

気が付くと、そこは本の中の世界。
とはいっても、
一揆の世界とそこまで大きく変わった様子はない。
だが、
私の力には一つの変化があった。
……スイッチのオンオフをするように、
霊を集める事も出来れば、
霊を集めない事も出来るようになっていた。
どうしてなのかは分からない。
が……
少なくとも、
私はこの本の中では、普通に振舞えるらしい。
良い事には違いないが、
都合が良すぎて逆に気味が悪い。
だが今は――
私の大切な仲間を探しに行くとしましょうか。
――この世界で、何かある前に。
私達の旅を何事もなく続けれるように。

断るより先に画像が届いた。

里心と父性本能が刺激される予感で、見たくなかった…

そして予感&魅月嬢の目論見通り、引っかかる画像式里心トラップ。

嫌悪トラップも連動発動してしまった。

普通の、人間含む動物の精子なら凍結保存で10数年もつらしいが。
マナと妖力で存在を保っている俺の細胞は、俺本体を離れた後は一年もつかどうかも怪しい。
兄はともかく妹は違うと判断。
奏撫のが半年年上？そんなの知らんよ、見た目は妹だし。

心配と世話をかけたようで、すまんね。ありがとう。と、正直に告白。

警戒と混乱で馬鹿な発言をしてたのも覚えてるけど、それはスルーだ。
スルーしようとしていきなり失敗してるけどさ。

親方、異世界から猫が降ってきた！そんなお時間。

ねこじゃらし瞬殺

その感情は溜息となって現れる。
そして球体のことを問われれば、暫し考えるようにし。

そしてプレゼントへの反応には、微笑みだけを返した。

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魅月の顔を見据えて言う。

トガノが夜一と共に行動したのは、通称『偽島』と呼ばれた場所を探索した時の一度きり。
そして、トガノが肉体を得たのもその地での出来事だ…と、魅月に説明する。