この世界に来てからずっと感じていた違和感は彼女が原因だったらしい。彼女が纏っている魔術式が、自分とそれと同じなのだ。

それどころかその式に乗っている魔力、それさえも自分のものと瓜二つの「色」をしている。

今まで数ある世界を渡り、幾度か自分の式を他者に教えたことはある。そのため自分と同じ式を使う人間がいることは有り得なくはない。

そして自分のものと「似た」魔力の持ち主にも幾度か出会った事が有る。しかし今回は違う。色が「同じ」なのだ。

基本的に魔力の質は、その持ち主の魂の質に左右される。そして魂は生まれや環境、経験によって形作られていく。

有り得ないのだ。魔力の質が同じ、つまりは「魂の質が同じ」などということは。

「有り得ない、なんてことは有り得ない」という誰かの言葉を思い出しつつ、受け入れがたい事実を前にして思考は留まることを知らない。有り得ている事には、理由があるのだ。

掌の上に魔力を燈し、彼女のそれと見比べることで理由を探る。

確かに「色」は同じだ。だが、その事実の中に感じる違和感は何か。

自分の魔力を揺らめかせ、煌かせ、考える。

そして、ふと気が付く。

彼女の魔力には、「温度」を感じない。まるで作り物のように、彼女の魔力は「生きてそこにある」感じがしないのだ。

隠蔽、あるいは偽装か。

彼女の本来の魔力を探るべく、精神を研ぎ澄ませていく。

この張りぼての魔力は彼女を元にしたものではない。

では誰が。

徐々に集中力を高めていくと。

――ゆらり、と彼女の隣にこちらを見つめる少女の姿が見えた。

儚げで、それでいてどこか神々しい印象も持つ少女。遥か遠い世界で彼女を見たことがある気がして、少しばかり動揺する。

表情に出ていたのだろう。少女は姿を見られていることに気が付くと直ぐにまた姿を消してしまった。

何か言いたげに口を開きかけたようにも見えたが気のせいだろうか。

尤も、姿を隠すということは何かしら理由があっての事だろう。

とりあえず、目下の謎は解けた。

彼女、あるいはその傍らに佇む少女が何故こんなことをしているのかまでは分からないままだが、今のところはここまででいいだろう。

いずれその時が来れば、物語は動き出すのだろうから。