弾いた銀貨は回りながら表裏をまぎらせて空を横切り、引力に捕らえられて墜落していく。スピンという異国語をそこから連想しようとして、しかし糸紡ぎのあの軽やかに減滅していく糸の儚い回転は空を行く硬貨の何も磨り減ることのない回転にはそぐわないまま、やがて硬い音が鳴り、暗い床を鈍い金属色が転がっていく。スピン。ウルドスピン。

「当事者を時間軸共々洗い流した、世界を素晴らしくカオスに変貌させたサウスエルタの現象だ」
「今の私は老いぼれていたあの時の私ではない」

時、過去に巻き戻る、変容しながらしかし同一性を保って、変若かえる。ウルドスピンという聞きなれない響きの、しかし当事者たちから漏れ聞こえる断片はひどく魅惑的に響く。私はあの二人の因縁の単に傍聴者でなく、当事者として手を突き入れねばならないと、過去が魅惑する。

スピン、それは糸を語源に持つ言葉で、自然にとらえるなら異土にある過去の女神ウルドの変奏と聞かれるあの固有名さえ、ことによると糸巻き spindleのアナグラムでないかとさえ思われる。それは減滅しながら回転する……一回りごとに同じ横顔を見せて、しかしそのたびごとに新しく、そのたびごとになにかの失われているスピン。

再生の奇跡を通じて過去を繰り返す私の左手のエンジェルが、輪胴をひとつ左に回した。