よくない、と真朱が囁く声が、ふと、耳に届いた。

真朱が私に憑いてから三日ほど経つ。
概して言葉少なで静かにしていた真朱が、それまでで一番はっきりと、よくない、と。

何が、と問う。
少しの間、真朱が押し黙る。
告げるかどうかを迷っているふうではなく、それは、より正確な言葉を探すための沈黙に似ていた。
私自身にも覚えのある間のとり方。取り零しを恐れる呼吸の数。
やがてどこか決然と、真朱の声が言う。

玄雲が、と。

あれはよくない。とても、よくない。
翳りとしか呼びようのない何かが、エンブリオとして力を持ってしまっている。
本来ならば契りを交わしてはいけない相手を、まして身のうちの、しかも罪のしるしに宿すなんて。
おかげで、雪がれるべき業さえもがそこに留まって玄雲を飼い肥らせている。

真朱は厳しい口調でそこまで言うと、ふう、と暖かな溜息をひとつ、吐いた。
ぬくもりとあきらめとが綯い交ぜになった、重湯のような溜息。
それは、かあさんの溜息によく似ていた。

あなたは、あなたの背負うべき罪を見誤っている。
村人が、ひいては父親があなたの腕に焼いた罪が、本当はあなたのものではないと知っているでしょう？
他人の罪をいくら悔いても、その咎が救われることなどありはしない。

あなたが悔い償うべきは、その要は、母親の死ではない。