（※こんかいのおはなしはEno1638のセリィさんとリンクしています。セリィおねえさんのおはなしとあわせておたのしみください！）





おうさまのもとへとたどりつくため、ひたすらあゆみつづける猫。

そんななか、あるおにいさんがグリーンパレスとよばれるところへせめこむため、ひとをあつめているというおはなしをききました。

グリーンパレス。
どうやらとくべつないどうほうほうでないといけないところのようです。
そんなばしょなのでしたら、もしかしたらおしろにせめこまれているおうさまがにげこんでくるみちがあるのかもしれません。

そこからはんたいにおしろのほうへすすんでいけばおうさまとであうことがあるかも――


なるべくひととかかわってはいけないけれども、おうさまにあうためならひつようなこと。
あまりめだたないようにして、もくてきをおえたらすぐにわかれてしまえば、猫のことなどすぐにわすれてくれるにちがいありません。

そうときまれば、あとはこうどうあるのみ。
猫はグリーンパレスにつれてってくれるようたのむため、さっそくそのおにいさんのもとへむかいます。













やすむことなくずんずんすすんでいくと、ようやくひらけたばしょにでてきました。
きいたかぎりではそろそろおにいさんがいるとされるばしょにたどりつくはずなのですが――


――と。
どうやらそれらしきひとたちがいるのをみつけました。

すずしげなようすのいろのしろいきれいなおにいさん。
かおがきれいなだけでなく、そのたたずまいはりっぱなきしさまさながら。
このおにいさんが、グリーンパレスへいくひとをあつめているおにいさんにちがいありません。


ちかくにいるあかげのおじさんもただものではないようです。
いっけんふつうそうにみえるものの、まるですきがありません。


それに――
こちらにきづいてふりむいたじんぶつに、猫はとびあがりそうになりました。
猫とおなじくろいけがわときんのひとみをもつ、おおかみににたおねえさん。
いつも猫にやさしくほほえんでくれる、そのおねえさんは――


猫はそのすがた――セリィおねえさんをみたとたん、せをむけてはしりだしていました。
うしろからこえをかけられたきもしましたが、かまわずそのままはしりつづけます。



――セリィおねえさんをふこうにしたくない。
だから、じぶんがいっしょにいてはいけない。




そうおもって、はしって、はしって、はしりつづけて。
いきをきらせてようやくたちどまろうとした、そのとき。



「ロク君！！」


どくん、としんぞうがはねました。
はしるのにむちゅうで、それいがいのことはまったくかんがえていなくて。

こえのぬし―――セリィおねえさんが、そこにいました。


「ロク君、一体どうしたの？　突然 走り出すからびっくりしたわよ」


すこしずつ、こちらにちかづいてくるおねえさん。
きっと猫のことをしんぱいしてきてくれたのでしょう。
でも――


「……何か、あったの？」


そんなおねえさんをふこうにしてはいけない。
だから――





ビュンッ！！







「え……？！」


おねえさんのよこをかけぬけるまりょくのや。
とつぜんのことに、おねえさんはびっくりしているようです。



『こないでなのです！それいじょうちかづいたらこんどはあてるのです！！』


そうボードにかきなぐり、おねえさんをにらみつける猫。




――これでいい。
きっとししょーのときとおなじように、これでおねえさんも猫にはちかよらないはず。
これで猫のことをきらいになってくれれば――

猫のもとからまたひとり、だいじなひとがいなくなる。それでも、それでまもれるなら。




そう、猫はかんがえていました。



いきなりこうげきされてさすがにおねえさんもおどろいたようでした。
けれども、猫のおもいどおりにはなることはありませんでした。



「ねぇ、ロク君。どうしたの？　何が…あったの？」


猫にといかけながら、ふたたびあゆみよろうとします。








なんで？

なんでおねえさんはとまってくれないんだろう？

なんでおもいどおりにならないんだろう？

なんで？

なんで――

　

――きずつけたくないのに







『こないでっていったのです！！』


これいじょうちかづかれたら、そうおもうとおそろしくなって


『！？』


がたがたふるえるてはすべり、まりょくのやがはなたれました。
はなつつもりのなかったやはまっすぐにとんでいき――


「――ッ！？」


ぽたり。


「カ……　ハァッ…」


あやまってはなたれたそのやは、まるでセリィおねえさんにすいこまれるかのようにまともにあたってしまいました。
おねえさんはいたみできずをおさえますが、きずぐちからはちがしたたり、じめんにあかいしみをつくっています。




おねえさんをきずつけた

じぶんがおねえさんをきずつけてしまった

きずつけるつもりなんてなかったのに

なんで　なんで？

どうしてこんなことになってしまったのだろう？

やっぱりじぶんは

だれかといてはいけないんだ――















けれども――


「わ…　わたし…　なら……　大丈夫だから……」


きずついたおねえさんは、猫をしんぱいさせないようにとほほえみすらうかべながらやさしく猫へかたりかけ――ゆっくりとあゆみよります。






そんな　どうして？

じぶんはおねえさんをきずつけたのに？

どうしておねえさんはとまってくれないんだろう？

どうしてきらいになってくれないんだろう？

このままじゃまたきずつける

そんなのはいやだ

いやなのに――――











「どう…したの…？ ロク君。　なにを、そんなに…怖がってるの？」





こわい

こわい　こわいんだ

じぶんがおねえさんをきずつけてしまうのがこわい

おねえさんをふこうにするのがこわい

だいすきだから、だからこそ

いっしょにいるのが――こわい





『なんで！なんでとまってくれないのです！？』


めになみだをうかべて、わけがわからなくなって。


『ししょーたちは小生をちゃんときらいになってもらえたのに！
まきこまないですんだのに――なんで！？
なんでおねえさんは小生をほうっておいてくれないのです！？
小生は――小生はおねえさんをふこうにしたくないのに！！』






それは、じぶんのこころのなかにしまっておこうとおもっていたこと。
猫のこころがおしつぶされそうになり、ついにあふれでてしまったおもい。



「ねぇ…　ロク君。　何が、あったの？　……教えて頂戴？」


なみだをこらえながら、猫はおねえさんをみあげます。
そこからさきは、せきとめていたことばがしぜんとつむがれていきました。
それはまるで、だれかたすけて、という猫のこころのさけびのようでした。









おねえさんといっしょにたたかったけんきゅうじょのまえでサタンさまとけいやくしたこと。




そのサタンさまから猫がにんげんとあくまのまざりものといわれたこと。




まざりものであるせいで、あくまのちからがうまくおさえきれないこと。















おさえきれないあくまのちからが、いつか猫のまわりにいるひとたちをふこうにしてしまうこと。










まりょくでしぜんとことばがつむがれるにつれて、なみだがおさえきれなくなり、めのまえがにじんでみえて――


めをこすっておねえさんをみると、














いったいどうしてなのでしょう？





いつもやさしくほほえんでいたおねえさん。





そのおねえさんのかおが、なにかをこらえるようにくしゃくしゃになっています。












まるでおねえさんが猫とおなじ――いえ、それいじょうにひどくきずついているかのように。












はじめてみたおねえさんのそんなかおに、猫はただただおどろくばかり。
なにかわるいことをいってしまったのでしょうか？

とつぜんのことにうろたえていると、

おねえさんはいつもとちがったようすのままゆっくりと猫にちかづき―――
















それは、しばらくわすれていたひとのぬくもりでした。

おねえさんにやさしくだきしめられた猫は、いままでせきとめていたつらいおもいがいっきにこみあげて。
こんなじぶんでも、やさしくしてくれるおねえさんのあたたかさがこころにしみて。




にゃあにゃあと、のどをからすくらいにおおごえをあげて。


とめどなくあふれるなみだをそのままに。







なみだがかれるそのときまで、猫はひたすら、ひたすらなきつづけました。

言いつつ紙芝居の準備を始めた。

遠くを見ながら分かったよーなフリをしている。

何事かを考え込んだ後、おもむろに頷いて、ビシッ！！　とロクを指差し、

高らかに宣言した。

白いのは語りながら猫を見ていた。
ぴくりと耳が動いたのも、びくりと震えたのも。そして――

白いのは不躾とも思わず、淡々と問い掛けた。
どこかがっかりしたようなその様子を見破ったかのように、龍は言う。

一瞬の幻想。
東洋の龍を思わせる”龍”が其処に居た。小さな猫など丸呑みにしてしまう程の牙、顎、巨躯。
それは――幻だったのだろうか…。

白いのは、猫を見ていた。

重ねた指先に、白いのはぴくりと耳を立てた。そっと目を伏せてその声を辿る。

自分の声なのだから知っているかも知れないけれど。
白いのはこつんと小さな猫と額と額を合わせた。
まるで普通の会話のように、小さな猫の子供の声と、白いのの声が響き合って、普通に喋っているように錯覚できるだろう――

異なった雰囲気の正体を、白いのはぽつりと話した。
同じ身体の中に、別の人格が混在している事。

この小さな猫に、白いのは興味を持った。持ったがしかし、彼が抱える”感情”を知る事が出来ない。
それは喜怒哀楽に優れた初めの『自分』――
キーの方が、彼と居て適切だろうかと逡巡したようで。

セリィおねえさんからわたされたハンバーグ。
猫がたべたいといっていたのをおねえさんはおぼえていてくれたのです。

ためらいがちに、ひとくちたべたそれはとてもおいしくて



――あたたかい



こんなにあたたかいのはきっとおねえさんのこころがこもっているから。
そのあまりのあたたかさに、猫のめにはふたたびなみだがこみあげて。


とってもあたたくておいしいハンバーグは、どうじにちょっぴりしょっぱいなみだのあじがしました。

ちらりとセリィおねえさんにめをむけましたが、あわててぶきをかまえました。

パンパンとふくのほこりをたたいてはらいました。