『行き当たりばったりな冒険　〜？？？の場合〜』



　とある世界、日付不明、とある場所にて――


　緩やかに波打つ黒みのある青い髪、金の瞳に尖った耳。
明らかにアースの人間ではない少女は、その外見に
似合わず、黒の戦闘用スーツに身を包んでいる。少女は
気怠そうに愛車のバイクにもたれ掛かった。
「……アタシ、物凄く眠いんですけど？　今、何時か
判ってる？　まだ夜中の二時よ？　一般の女の子なら、
美容のためにぐっすり寝たい時間よ？」
　不機嫌そうに少女は言った。
「一般の女の子ならな。お前は違う」
　少女より年上だと思われる男は口元に笑みを浮かべた。
「普通じゃなくたって、アタシもか弱い女の子なのよ。
女の子は優しく扱ってよね」
「ビルの壁を素手で破壊するような怪力の種族がか弱い？」
「女の子はか弱いの。種族の特徴なんて関係ないでしょ」
「あぁ、そうだな。ディアーはか弱い女の子だな」
「何よ。馬鹿にして！　どうせアタシは……
アタシは……」
　ぽろぽろと零れる涙。
「好きで……こんな所に居るんじゃないもん」
　男は少女を抱き寄せる。
「すまん。悪ふざけが過ぎた」
「会いたいよ。生き残ってる仲間達に……会いたいよ」


　ディアーは顔を背ける。
「そうなんだ。教えてくれて有り難う。少し元気が出たかも」
「どういたしまして」
　ディアーは泣き止み、笑顔を浮かべる。
「……でも、チョコは無しかな。お母様が
教えてくれたイベントだけど……貴方には
チョコ無しね」
「チョコ？　何の話だ？」
「アースの人間って一年に一回特別な日があるんでしょ。
誰かにチョコを渡す日らしいね」
「……あ−、そういやそんな日があったな。
アースから離れて久しいから、すっかり忘れてた。
何だ。俺にチョコをくれるつもりだったのか？」
「ついさっきまではね。貴方にあげようと思ってた。
でも、チョコは無し。アタシ一人で食べちゃうもん」
「あちゃ。そりゃないよ」
「貴方が意地悪するのが悪いのよ」


　ディアーが彼に投げて寄越したのは小さな小箱だった。
「仕方がないから、これをあげる」
「何だ？」
　小箱を開けると中には紙の包装に包まれた茶色の物体が
入っていた。
「失敗作だけどね。食べられない程、酷くはないわ。
勿体ないから、貴方が食べて」
「これって……」
　見た目は悪いが、匂いからしてチョコだった。
「溶ける前に食べちゃってよ。じゃあね♪」
　男と一人残して、ディアーは去っていった。
「……結局はくれるのか。有り難うな」