古城と草原。
異世界とは思えないような見慣れた光景だった。
だが流れる空気は間違いなく異質であり、ハベルはねっとりと重い何かが足元にまとわりつくのを感じていた。

しばらくの間、ぼーっとした頭の感覚に耐えると、
懐から鎖のついた時計を取り出す。
この時計は通信機になっている。元の世界に状況を報告するためだった。

ややあって、応答があった。

通信を担当しているのはパブロ・クレティオンらしかった。
教会で長年魔術の研究をおこなう騎士の一員であり、今回のプロジェクトの長を務める。
そして、ハベルの父親でもある。

突然の台詞に、ハベルは少し呆気にとられた。
これまで、任務中に父子として会話をしたことがなかったためだ。

穏やかな笑い声を最後に、通信は切れた。

危険を伴う今回の任務。志願したのはハベル自身だった。
父が何も言わずに受け入れたのは、ハベルの心にある何かを感じ取ったからだろう。

ハベルは時計を見つめたまま、昔のことを思い出しかけたが、
やがてきっと顔をあげ、城に向かい歩き始めた。