漆黒の闇に染まる黒髪と、血のような赤黒い瞳を持った少女は、俺が出した結論を聞き終えると、その赤黒い瞳をゆっくりと閉じ、短い返答を俺に寄越した。
　それはまるで興味のなさそうなもので、運命なんて言葉を持ち出してさぞ意味深しげに語っちゃった俺は若干恥ずかしくなってきてしまったのだが――、けれど俺は聞き逃さなかった。そう、の後に消えそうな声で続いた、“有難う…”という、感謝の言葉を。

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　私が住んでいたのは、メルンテーゼにある町の一つ。
　その町は面積こそ広く、広大な土地を所有していたのだが、その大半を牧場や農業に費やしていたため――、町としては、そこまで発展することは無かった。
　私はそんな、“小さな”町で、その町にはあまり似合わないような大きなお屋敷に住んでいたの。

　昔――と言っても、ほんの五年ほど前までは十数人ほどの家政婦が屋敷に住まい、ご飯の準備から家の中の掃除、そして庭の手入れといった殆どのことを任せていて、勿論、私の世話を焼くメイドや執事といった存在も居り、私は何不自由なく暮らしていた――、俗に言う、お嬢様というやつだった。
　その五年ほど前に、突然お父様が病気で無くなってしまい、生活は一変――とまではいかなかったものの、十数人ほどいた家政婦は一人になり、私の世話係は長年仕えてくれていた執事一人となってしまい、中でも一番寂しかったのは、母親――お母様がお父様の後を継ぎ、会社を経営するために家を空けることが多くなってしまったことだった。
　自分がやらなければいけないことは昔に比べて増えはしたものの、それでも数少ない家政婦や執事は私の面倒を見てくれ、晩御飯の豪華さは減ったものの、家政婦の優しい家庭の味、と言うらしいご飯は、それはそれで美味しく、お父様が亡くなった後も私は何不自由なく暮らしていくことが出来ていた、と思う。

　そしてそこから五年後――、今の生活は、会社でお母様や、お母様と一緒になって頑張ってくれた社員さんたちの頑張りもあって、お母様が後を継いだ会社は何とか倒産を免れ、少しずつではあるが利益を出せるようになって来ていたらしい。変わりにお母様の家を空ける時間はより増えてしまい、それを誤魔化すように私の家にはまた家政婦やメイドといった人達が雇われるようになってきていた。
　けれど、どんなに家政婦やメイドたちの数が増えようともお母様に会えないということは変わりようがなくて。私は毎日、毎日その寂しさに蓋をして、徐々に増えていく家政婦やメイドたちに心配を掛けないよう、嘘でもいいから笑おうって。――そう思いながら、毎日を過ごしていたの。

　そんな時だった、と思う。
　庭の手入れを手伝おうと、やや雑草の目立ってきた植込みの近くに膝を曲げてしゃがんで。雑草の根本を掴み、引き抜こうと力を入れた時――、

　と、聞き慣れない鳴き声を、私は耳にしたの。
　私は咄嗟にきょろきょろ、と辺りを見渡し、それから雑草を引き抜こうと掴んでいた手元を見て、ぽいっと抜けていた雑草を投げ出すと、曲げていた膝を伸ばすように立ち上がり辺りを散策して回ったわ。
　この辺りは牧場が多くて動物と触れ合う機会は他よりはずっと多いのだろうと思うのだけれど、私の家では動物を全く飼っておらず、猫や犬といったペットにはすごい憧れを私は持っていて――その鳴き声を聞いた瞬間、私の胸は高鳴ったの。猫！猫が居るって！

　猫の鳴き声を頼りに、植込みを乱暴に掻き分けてみると、そこにはオレンジ色の縞模様が全身を覆う、毛の短い可愛らしい猫の姿があった。その猫はまだ小さく、ところどころが土や泥で汚れており、首輪をしていない。
　突然植込みを掻き分け現れた私の姿に少しだけ驚いた様子だったが、すぐにまた「にゃー」と可愛らしい声をあげ、人間に慣れているのだろうか？私のところまでとことこ、と歩いてくると、私の顔に頭を擦り付けるように甘えてくるのだ。

　私は猫の全身が土や泥で汚れているのも忘れ、その猫を躊躇なく抱き上げたの。だってとっても、とっても可愛らしかったから――。










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...NEXT

辛そうな様子に名を呼ぶと、思わず震えているユイの手を握ろうと両手を伸ばし。

そしてユイの見せてくれたよく手入れのされた輪刃を興味津々の様子で眺め。

その様子を想像してうんうんと頷き。

食べる様子を心配げに見守っていたが、どうやら合格点だったらしい評価にほっとしたような笑みを零す。