「ところで、お館様ってのも名前じゃないよな」

　稽古を終え……というか、打ち合いの最中に足払いをかけられて地面に転がされ『汚い！！　剣の稽古じゃなかったのかよ！！　』と、捨て台詞を吐きながらそのまま地面に大の字になってふてくされたまま、ツナちゃんがふと、そんな疑問を口にする。

「そーなん？　」

「……お前ってホント自分の頭でものを考えないよな……」

「ははは……困った時はちゃんと考えんで？　」

「……聞いても無駄かもしれないけど、お館様って名前はなんて言うんだ？　」

　ライチは少し考えた後……

「お館様以外だと、王とか、天とか言われてたなぁ。御殿が完成してからは『朱天』って名乗ってた筈や」

　そう言ってらいちは朱塗りの大柱の御殿を振り返る。
　こいつにしてはまぁまぁまともな返答（こたえ）を寄越してきた。

「朱天ねぇ……こんな山の中の豪族にしては立派な名前だな」

　もっとずっと後の時代になると色々違って来るんだろうけど、ツナちゃん達の時代は

「この世をば　わが世とぞ思ふ　望月の　欠けたることも　なしと思へば」

　なんて、「俺達がこの世界の支配者だ！！　」みたいな詩を読んでいても、天下の人間が全部都の支配下というわけではなく、都を離れれば豪族と呼ばれる「王」達がその地域をめいめい勝手に収めていた。

「今はまだお山の大将かもしらんがな？　お館様はこの大江の王に留まる器と違うわ。そのうちこの国の天辺まで駆け上がる器や」

「滅多なことを言うなよなー。こんな吹けば飛ぶような小勢力が、ツナちゃん達源氏や、あのろくでなしの平家を従えた今の藤原氏に勝てるわけないだろ？　」

「へーけ……げん……じ……」

　平家や源氏の規模の大きさどころか、そもそもそれらが何であるかも全く理解していない田舎者丸出しの返答に、ツナちゃんはわざとらしく溜息をついた。

「しょうがない……ツナちゃんがこの国の事、教えてやんよ」

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らいちが物干竿をか構えなおそうと手繰り寄せた拍子に袂から懐中時計が零れ落ちる

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残ったお肉にゆっくりと歩み寄る灯。
目にも留まらぬ速度で食らい付くと…
爆発したような激しい炎と共に、一瞬で炭の塊が出来上がった…。

送ったレシピは一般的な焼きリンゴのレシピ、一手一手ちゃんとした計測方法や調理法が書いてあり、レシピ通りに仕上げれば問題なく完成するだろう。

メモ用紙のようなものを取り出し、さらさらとペンで絵を描いた

https://dl.dropboxusercontent.com/u/92962901/raion.png

訝しむ目で、相手を見つめる。
先日のような貼り付けた笑顔ではなく、魔女の瞳には表情が宿っていた。
少し申し訳なさそうに目をそらし、

隙だらけの所作で、財布の中身を確かめる。
問答に答えずにこの場で襲ってしまえば、容易く奪れそうな有様だ。