『暗月の小枝』

私がまだ幼い頃。
苦しむことのない未来があるのだと思っていた。
悲しむことのない未来が待っているのだと思っていた。

今はそうでは無いと知っている。
ただ、その時に抱いていた感情は、今でも覚えている。
あの、枝を折った感触も。



空気は驚くほどに乾燥していた。
喉は乾いていて唇もかさかさ。
しかし、この手の中にある小枝は確かな湿り気を帯びている。

従属の毛に絡まっていた折れている小枝。遠い過去の世界の遺物。
けれど、その懐かしい魔力は暖かく。私に眠っていた何かを呼び覚ます。

時間はまだある。けれど決して多くはない。