エンブリオとは大変に興味深い存在だ。

それは意志を持ち、時に持たず、生物のように見えて無機物にもなりえる。
契約者に望まれる存在として存在し、成長する。
捧げられたネクターの量と、行使された時の長さによって。

ザカリアのカンバスとなっている“ブリギット”は、けして長い付き合いのエンブリオではない。
それでも、女神は彼に微笑んだ。
彼らドルイドの“ブリギット”に対する信仰心によるものだろうか。
ブリギットが女神と呼ばれる由縁。それに相応しいだけの、戦うためのギフトを。

妖精の森の夜気に混じる鈴蘭の香り。
ドルイドの指先より零れるハーブは、夜露に彼の記憶を香りづける。



呪術は香り、彼の語る物語は誠となる。
夜露は集まり、宙に浮き、厳つい筋肉や毛並みを形作っていく。

煙草の香る象牙色の狼。
金色の体毛を靡かせていた厳つい巨狼。
どこか拗ねた様な面立ちの、酷く小柄な黒狼。

水塊によって描き出された狼たちは、もはや消え失せた物語を描き出す。



歴史の闇に消えた“妖精”に指輪を盗まれたという小話を思い出す。
あれを語ったのはザカリアだった。
此岸の記録としては消え失せても、彼岸に生きる彼は忘れ得ない。
彼が忘れえぬ限り、彼らはやはり此処に居る。

彼が描き出した戦友達の影は、わたくしを阻む者をきっと“撃滅”するだろう。
その牙が、わたくしの首をかききらぬ限りは。

憤る考古学者へ困ったようにほほえみかける。

この異様な状況にも、老貴婦人は一切取り乱す気配はない。
トランクから茶器を取り出すと、冒険家と農兵の前に並べはじめる。

昨日の考古学者の質問など何のその。
いけるクチらしい老貴婦人は、嬉々として蜜酒を取り出した！

　自らの生命力を分け与えた、星々の力を司る大狼を御者席に乗せては…
　

　その毛並みを楽しむように、わしゃわしゃと背や喉を掻いてやる運び屋は満足そうだ！

紅茶をぐぐっと飲み干した男はカップを置くと、おもむろにタバコに火をつける。そしてフゥ〜〜〜とゆっくり煙を吐き出した。

　博士と、居候たる男を見渡したのち、自らの足元へと顔を落とし……

　運び屋はこぶしを握り締めて、力説した！！！