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　　　　―　広庭　―
　　　

……いい年した男がぬいぐるみと恥をどこかに捨てたとしか思えない会話を繰り広げている。
先日、見知らぬ熊のぬいぐるみに壮大な犯行計画の概要を聞いたとは、まるで思えない光景だ。

ましてや知らぬうちにその犯行計画に私が巻き込まれていて、
その主犯が目の前で騒ぐ変態をあしらう臭く汚いぬいぐるみだと、誰が思うだろう。

…いや、いけない。現実逃避もここまでだ。　先日散々言われたじゃないか。


放っておけばいつまでも泣いて騒ぎそうな坂本に、私は声をかけた。

どこか腐肉と坂本の会話が遠く聞こえる気がする。

『変に意識して行動しなくていい。機会があったらでいい。』
わざとらしいアニメっぽい声の割に、うさんくささが隠せないあの熊の声を思い出す。


機会があったら、とは言われたけど、早速か。
じわりと沸く緊張感に、小さく息を飲んだ。

落ち着け、と自分に言い聞かせながら、私は出来るだけ自然に言うように心がけた。

腐肉は黙ってこちらを一瞥した。なんて事は無い素振りで、私は腐肉を睨み付ける。
さも、「働いてもらいますよ」と言いたげになるように。

…なんて、余裕で言えればいいものの、内心は緊張感で頭の中はめちゃくちゃだ。
ああくそ。ポーカーフェイスなんて駆け引きめいた事、たかがその辺の高校生が綺麗にかませられるほど場数があるわけないだろうに。

…いや、落ち着け。大丈夫。
こじつけだとしても、それっぽくは聞こえる筈。説得力だっていくらかある筈だ。

坂本が気楽そうに声を上げる。
その裏で、本番に弱い私はばれないように小さく小さく息をついた。


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……嘘は言ってない。本心だ。

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