「当たり前の話だが、結局のところ俺達が向かい合える現実は今この瞬間だけだ。
コイツを受け入れる事しかできねぇんだから、無かった事をガタガタ言ってもしゃあねぇな。
複数の未来から好きなのを選んで実現させるなんて、それこそ神格でもなけりゃできねぇ。
だが…なまじ強烈に印象に残るっつうからタチが悪い事この上ねぇなあ。
それが今よりもいい結果を生み出していたものなら尚更、舌打ちの一つも出るだろうよ」

「ふーん、姉ちゃんは自分が使い手として成長してる実感あんのか…
まぁなぁ、エンブリオが完全に独立して行動するタイプになると話は別だが
体動かすのは基本的に自分だから、五感を通して経験値が蓄積されてる感覚も無いワケじゃねぇんだ」

「だがそれも突き詰めれば、あくまでエンブリオによる能力の賜物であって
その経験値はエンブリオに還元されてる気がしてなあ、実際身に付いてる感じが薄いんだよ。
一揆騒動が終わって、全てのエンブリオと解約した時に自身の内に残るモノはあるのか…
記憶はあっても経験が残らねぇんじゃ、そいつぁ自分の成長とは言えねぇと思うんだが、気の持ちようかね？
…ま、利用できるモンはありがたく利用させてもらわないとだがな」

「単独行動の場合は自分の行動でどれだけアドバンテージを積めるかに直結するから
手数の重要性は高いな。…しかし4人5人で乱戦するならともかくペア程度で動きが鈍るってのにゃ
どうにも納得いかねぇなぁ。そんなに互いの邪魔になるってのか？」

「…用途と言やぁ、遭遇例の無ぇ相手の手の内を少しでも暴き出す目的で契約主共々玉砕覚悟で
体を張るってのは最近ちょこちょこ聞くな。リベンジの為とはいえそういう運用は正直どうかと思うが
ある意味下手に参戦させるよりも効果的かもしれねぇってのがまた何とも哀愁を誘うな…」

「やっぱそうか。能力にしろ技術にしろカバーできない穴ってのはどこかしらにできるモンだが
そこを補い合えない単独行動では如何にしてその穴を少なく、小さくするかが肝要になってくる…
となれば得手不得手がハッキリ分かれちまうよか様々なケースに対応可能な方が生存率は高いしな」

「ありがとよ。…っつっても簡単な仕事だ、余程タイミングが悪くねぇ限り失敗する事ぁ無ぇだろう。
ところで闘技大会なんだがよ、どうもそっちで勝つ事に特化して技術を揃えてるフシのある連中まで
いるっつう話を耳にしたんだが…そこまでして一体何になるんだ？
この"世界"の事はよく知らねぇが、闘技大会で勝ち上がるってのはそんなに名誉な事なのかね？」

「あー、能力同士の合成にも法則性が見られてきたって言われてるな。
素材から普通に作るよか手間と資金が要るみてぇだが、選択肢が増えるんなら大歓迎だぜ。
ただまだ分からねぇ点も多いらしいな…秘められた力が強すぎると難易度跳ね上がるとかよ。
この調子ならその辺もどんどん解析されていくんだろう」

「姉ちゃんの同行者なら粒揃いなんだろうが、そう謙遜するなよ。
…あぁ、こっちの事は心配すんな。痛手を被る前に退散させてもらったし
目くらましに撒いた餌も2日程度でリカバリの効くレベルだ、大したダメージは無ぇよ。
いやーしかし最悪…違うな、ある意味最高のタイミングだったぜ？来る、と思ったら来たからな」